「内蔵GPUなのにRTX 4070を超える」——AMDのRyzen AI Max+ 395(開発コード名Strix Halo)を積んだミニPCの広告文句を見て、半信半疑になった人は多いはずです。グラフィックボードを一切積まないミニPCが、実売20万円台のグラボ搭載デスクトップに匹敵するというのは、にわかには信じがたい話です。

結論から言うと、この謳い文句は「条件付きで本当」です。AMDが根拠にしているのはノートPC用の低電力版RTX 4070(RTX 4070 Laptop GPU)との比較で、しかもAMD自身が選んだゲーム・設定での結果です。独立系レビューで検証すると、タイトルによってはその主張に近い結果が出る一方、届かない場面もはっきり存在します。そして、そのRTX 4070 Laptop GPU自体が、デスクトップ版RTX 4070より1〜3割ほど遅い下位互換の製品だという事実も、広告文句だけを見ていると見落としがちです。

この記事では、AMD公式の主張・独立系レビューサイトの実測データ・実際に販売されているミニPCの価格を突き合わせ、「RTX 4070級」がどこまで正確で、どこで誇張になっているのかを検証します。あわせて、Strix Halo最大の特徴であるユニファイドメモリを使ったローカルAIとの両立や、デスクトップの専用GPU機と比べたときに避けられない限界も具体的に示します。

Ryzen AI Max+ 395とは何か

CPU Zen 5・最大16コア32スレッド
最大ブーストクロック5.1GHz、L3キャッシュ64MB。ノートPC向けのチップですが、コア数だけ見ればデスクトップの上位モデルに匹敵する規模です。
GPU Radeon 8060S(RDNA 3.5・40CU)
20基のワークグループプロセッサ(WGP)、演算ユニット換算で40CUという、内蔵GPUとしては破格の規模です。前回検証したRadeon 890M(16CU)の2.5倍にあたります。AMD公式ブログ|Ryzen AI Max+ 395 製品紹介
NPU XDNA 2、50+ TOPS(CPU・GPUと合わせ最大126 TOPS)
NPU単体の性能は50 TOPS強です。製品ページで見かける「126 TOPS」はNPU・GPU・CPUを合算したプラットフォーム全体の理論値で、NPU単体の数字ではありません。混同しないよう注意してください。
ユニファイドメモリ 最大128GB LPDDR5X-8000
256bitインターフェースで、理論帯域幅は約256GB/s。CPUとGPUが同じメモリプールを、コピー処理なしで直接参照する設計です。

当サイトではグラボなし(内蔵GPU・APU)でゲームはできるかという記事で、Radeon 780M・890Mといった一般的な内蔵GPUの実力を検証しました。あちらの結論は「最新のAAAタイトルは実用的なfpsに届きにくい」でしたが、Strix Haloは同じ内蔵GPUというカテゴリに入っていても、演算ユニット数もメモリ帯域も別格です。本記事はこのStrix Halo専用チップに絞って、その実力を掘り下げます。

「RTX 4070超え」の根拠と、独立検証との差

AMDは製品発表時、1080p・高設定の17タイトルでRadeon 8060Sを検証し、最大68%(Borderlands 3)、平均でおよそ23%上回ったと発表しました。比較対象はASUS ROG Flow Z13(2023年モデル)に積まれた、ノートPC用の低電力版RTX 4070です。

比較対象は「デスクトップ版RTX 4070」ではない
NVIDIAのRTX 4070 Laptop GPUは、電力枠(TGP)が35〜115Wに抑えられた省電力版です。同じ名前でもデスクトップ版のRTX 4070とは別物で、実測ではデスクトップ版のほうが1〜3割ほど高速というデータもあります。「RTX 4070並み」という言葉を見て、デスクトップの単体グラボと同格だと考えるのは早計です。
AMD自身が選んだ条件での比較
17タイトル・1080p・高設定という条件も、正確な電力設定などが公開されないままAMDが用意した資料です。第三者による再現検証ではない点は、割り引いて見る必要があります。

TechPowerUp|AMD公式資料に基づく68%高速の主張

では、独立系レビューではどうだったのか。ここが本題です。

Hardware Canucks(TechSpot経由) 勝敗はタイトル依存
サイバーパンク2077ではRadeon 8060Sが39fps、RTX 4070 Laptop GPU搭載機が37fpsとわずかに上回りましたが、GTA Vなど一部タイトルではNVIDIA側が最大37%速いという逆転も確認されています。「常に上回る」わけではないというのが実態です。TechSpot|独立検証の記事
NotebookCheckの実機レビューでは互角という評価
Strix Halo搭載機を実際に検証したNotebookCheckのレビューでは、3DMark Time Spyのスコアが10,200点台を記録し、記事タイトルにも「RTX 4070 Laptopと肩を並べる(neck-and-neck)」と表現されるほど拮抗した結果でした。タイトルによって差はあるものの、現代的なゲームではおおむね比較可能な水準としています。NotebookCheck|検証記事
ちもろぐ(GMKtec EVO-X2実機レビュー) RTX 5050にも届かず
日本語の実機レビューでは、3DMark Fire StrikeのスコアがデスクトップのRTX 5050相当にとどまり、実ゲームのfpsも「RTX 5050に届かないものの、内蔵GPUとしては最強クラス」という評価でした。RTX 5050はRTX 4070よりかなり下位のエントリーモデルです。ちもろぐ|GMKtec EVO-X2レビュー

3つのソースの結論がばらつくのは、比較対象がまちまちだからです。AMD公式とHardware Canucksはノートパソコン用のRTX 4070 Laptop GPU基準、ちもろぐはデスクトップのRTX 5050という、そもそも別の物差しで測っています。さらにミニPC側もBIOSの電力設定(後述)によって性能が変わるため、テスト機の設定次第で数字が上下しても不思議ではありません。「RTX 4070級」という言葉は、比較対象を明示しないまま独り歩きしやすい表現だと考えたほうが安全です。

実ゲームでの目安として、ちもろぐが計測したGMKtec EVO-X2(64GB LPDDR5X-8000)のフルHDでの実測値を見てみます。

GMKtec EVO-X2(Ryzen AI Max+ 395)フルHDでの実測fps

ちもろぐの実機レビューより。設定・解像度はタイトルごとに異なる。VRAM割り当て・ドライバのバージョンで数値は変動します

VALORANT(最高+MSAA x4)355.2fps
オーバーウォッチ2(ノーマル)283fps
Apex Legends(中設定)186.1fps
原神(高設定)149.4fps
モンハンワイルズ(中+FSR+フレーム生成)100.9fps
鳴潮(パフォーマンス)106.9fps
ゼンレスゾーンゼロ(高設定)95.4fps

eスポーツ系タイトルは軒並み高フレームレートで、アニメ調の3Dタイトルも100fps前後を確保できています。ハイライトしたゼンレスゾーンゼロやモンハンワイルズのように要求の重いタイトルでは、アップスケーリングやフレーム生成を使ってようやく実用域という水準で、当サイトの内蔵GPU記事で見たRadeon 890M機よりは明確に高いものの、専用GPU搭載のミドルクラス機と同格とまでは言い切れません。

レイトレーシングとFSR 4という弱点

「RTX 4070級」という言葉が特に誤解を招きやすいのが、レイトレーシングとアップスケーリング周りです。

レイトレーシングはRDNA 3.5世代の弱点
Radeon 8060SはRDNA 3.5アーキテクチャで、AMDの現行世代の中でもレイトレーシング性能が弱いとされる世代です。ラスタライズ(通常描画)のfpsで健闘していても、レイトレーシングをオンにした瞬間に差が開きやすくなります。
FSR 4は非対応
AMDの最新アップスケーリング技術FSR 4は、現行の計画ではRDNA 4世代のGPU向けで、RDNA 3.5を積むStrix Haloは対象に含まれていません。旧世代のFSR技術は使えますが、画質面でNVIDIAのDLSS最新版と比べると見劣りする場面があります。将来的に対応が広がる可能性はありますが、2026年9月時点で確定した話ではありません。

つまり「RTX 4070並みのfpsが出ることもある」のと「RTX 4070と同等の映像体験ができる」のは別問題です。レイトレーシングを重視するタイトルや、最新のアップスケーリング技術を前提にした作品では、専用GPU搭載機との差を感じやすくなります。

ユニファイドメモリの仕組みとローカルAIとの両立

Strix Haloがゲーム性能の数字以上に評価されている理由は、このユニファイドメモリにあります。

メインメモリをVRAMとして動的に割り当てる
専用のVRAMを持たない代わりに、128GB搭載機であればAMDのVariable Graphics Memory機能を使って最大96GBまでをGPU用のメモリとして確保できます。単体のグラフィックボードでは、GeForce RTX 5090でも32GBが上限であることを考えると、この容量は専用GPUでは実現できない領域です。
BIOS側で割り当て量を手動設定
OS標準の自動調整に加え、多くのミニPCはBIOS(UEFI)の設定画面でGPU用メモリの割り当て量を手動指定できます。ゲーム中心ならGPU割り当てを絞ってシステムメモリを厚くし、ローカルAI中心なら割り当てを増やす、という使い分けが可能です。
大容量メモリがそのままローカルAIの強みになる
ローカルLLMは「パラメータ数×0.6GB」程度が4bit量子化時の目安です。128GB搭載機であれば、70Bクラスの大規模モデルも量子化次第で動かせる計算になり、単体GPUでは高価なRTX 5090(32GB)クラスでも届かない容量域を、ミニPC1台でカバーできます。

この点は、当サイトのローカルAI向けGPU選びで解説した「VRAM容量が第一関門」という原則と地続きですが、あちらはグラフィックボード単体でVRAM容量を確保する前提で書いています。Strix Haloはメインメモリを間借りする方式のため、同じ理屈でもアプローチがまったく違う点は押さえておいてください。ゲーミング向けの単体GPUでこの容量域(VRAM 32GB超)に対応する製品は現状RTX 5090(32GB)が上限で、業務用のNVIDIA RTX PRO 6000 Blackwellのような96GB級GPUは存在するものの実売130万円を超えます。10万円台後半〜30万円台のミニPC1台でこの容量域に手が届くことこそが、Strix Halo機の実質的な差別化ポイントです。

ただし注意点もあります。ローカルAIの主要ツール(ComfyUI・Ollama・LM Studioなど)は歴史的にNVIDIAのCUDAを前提に最適化されてきました。AMDのROCmも対応を進めていますが、情報量やトラブル対処のしやすさではまだNVIDIA環境に一日の長があります。「大容量メモリで大きなモデルが載る」ことと「快適にセットアップできる」ことは、やや別の話だと理解したうえで検討してください。

実在するミニPCの価格を確認する

Strix Halo搭載ミニPCの代表格が、GMKtecのEVO-X2です。2026年9月時点で確認できた価格情報を整理します。

GMKtec EVO-X2 64GB+1TB
GMKtec日本公式ストアでの通常価格は¥389,990、セール価格は¥347,999でした(2026年9月14日時点で直接確認)。一方でAmazon.co.jpや公式ストアのクーポン適用時には20万円台前半まで下がった実例が複数報告されており、価格変動がかなり大きい製品です。購入直前に必ず現在価格を確認してください。GMKtec公式(日本向け直販サイト)
GMKtec EVO-X2 128GB+2TB
128GB版はローカルAIで70Bクラスのモデルまで見据える場合の構成です。価格は情報源によって20万円台後半から50万円台まで大きく幅があり、この記事の時点では一つの数字に確定できませんでした。購入を検討する場合は、公式ストアとAmazonの該当ページで当日の価格を必ず直接確認してください。Amazon.co.jp商品ページ
Amazon.co.jpでの流通状況
同一製品でも64GB+1TB・96GB+1TB・128GB+2TBなど複数のASINが併存し、それぞれ独立して価格が変動します。セール時期によって数万円単位の差が出るため、複数の出品ページを見比べてから購入することをおすすめします。Amazon.co.jp商品ページ(64GB+1TB)

64GB+1TB構成の20万円台前半という価格帯は、前述のローカルAI向けGPU選びの記事で紹介したRTX 5070 Ti搭載BTO(30万円台前半、VRAM16GB)よりも手頃です。ゲーム性能だけで比べればRTX 5070 Ti機のほうが素直に有利ですが、VRAM容量で見ればStrix Halo機が大きく上回ります。どちらを選ぶべきかは、ゲームとAIのどちらを主目的にするかで変わってきます。

デスクトップの専用GPU機と比べた現実的な限界

ゲーム性能の検証だけを見て飛びつく前に、デスクトップの専用GPU機と比べたときの構造的な弱点も押さえておく必要があります。

拡張性がほぼゼロ
Strix Haloはノートパソコン向けに設計されたチップで、搭載するミニPCの多くはPCIeスロットを持ちません。将来性能が足りなくなっても、専用GPUを後から追加することは基本的にできません。
GPU単体としての交換ができない
デスクトップの専用GPU搭載機であれば、GPUだけを載せ替えて延命できますが、Strix HaloはCPU・GPU・メモリが1チップに統合されているため、GPU部分だけの更新は不可能です。
冷却設計はミニPCの筐体に依存する
TDP120W前後の熱をコンパクトな筐体で処理する設計のため、高負荷が連続する用途では機種ごとの冷却性能の差がそのまま持続性能の差に直結します。
価格対性能では専用GPU機に分がある場面も多い
20万円台前半という価格は、同額のRTX 5060 Ti搭載BTOデスクトップと比べると、純粋なゲームfpsでは専用GPU側が上回る場面が多くなります。ゲームだけが目的なら、専用GPU機のほうが素直な選択です。

当サイトの小型ゲーミングPCのおすすめモデルで扱ったASUS ROG NUCのような超小型SFFは、あちらは専用GPU(ノートPC用GPUチップ)を積む機種でした。Strix Halo機はそもそも専用GPUチップを積まず、CPUの内蔵GPUだけで完結する点が根本的に違います。「専用GPUを積まない代わりに、通常の内蔵GPUよりはるかに強力」という、独自のポジションだと理解しておくと整理しやすいはずです。

中古のStrix Halo機を見かけることもあるかもしれませんが、初めての1台としてはおすすめしません。理由は保証の有無よりも、不具合が出たときに原因を切り分けられるかどうかです。CPU・GPU・メモリが一体化した構成は交換による切り分けもできないため、新品の初期保証がある状態で購入したほうが安心です。

こんな人には向いている

ゲームとローカルAIを1台で両立したい人
大容量ユニファイドメモリを活かし、日中はローカルLLMやローカル画像生成、夜はゲームという使い方ができます。
設置スペースが限られている人
ミニPCの筐体サイズで、専用GPU搭載デスクトップに迫るゲーム性能を確保できます。
レイトレーシングや最新アップスケーリングにこだわらない人
ラスタライズ主体のタイトルや、eスポーツ系タイトル中心のプレイスタイルなら、弱点の影響を受けにくくなります。

逆に、最新AAAタイトルをレイトレーシングありで遊びたい人、将来的なアップグレードを前提にしたい人には、デスクトップの専用GPU機のほうが向いています。

よくある質問

Q.Ryzen AI Max+ 395はデスクトップ版RTX 4070と同等ですか?

A.同等ではありません。AMDが根拠にしているのはノートPC用の低電力版RTX 4070(RTX 4070 Laptop GPU)との比較で、そのノートPC版自体がデスクトップ版より1〜3割ほど遅いとされています。独立系レビューでもタイトルによって勝ち負けが分かれており、常にRTX 4070並みというわけではありません。

Q.GMKtec EVO-X2はいくらで買えますか?

A.2026年9月時点でGMKtec公式ストアを確認したところ、64GB+1TB構成は通常¥389,990、セール価格¥347,999でした。Amazon.co.jpやクーポン適用時には20万円台前半まで下がった実例も複数報告されており、価格変動が大きい製品です。購入直前に必ず現在価格を確認してください。

Q.ユニファイドメモリとは何ですか?

A.専用のVRAMを持たず、メインメモリの一部をGPU用に動的に割り当てる仕組みです。128GB搭載機であれば最大96GBをGPU用メモリとして確保できます。BIOS側で割り当て量を手動調整できる機種が多く、ゲーム用とAI用で配分を変えることも可能です。

Q.レイトレーシングは快適に使えますか?

A.弱点です。搭載GPUのRDNA 3.5世代はレイトレーシング性能が弱いとされており、最新のFSR 4アップスケーリングにも非対応です。レイトレーシングを重視するなら専用GPU搭載機のほうが適しています。

Q.後からグラフィックボードを追加できますか?

A.できません。Strix Halo搭載ミニPCの多くはPCIeスロットを持たず、CPU・GPU・メモリが1チップに統合されているため、GPUだけの交換もできません。将来のアップグレードを重視するなら、デスクトップの専用GPU機を検討してください。

Q.ゲーミングPCの代わりとして万人におすすめできますか?

A.おすすめできません。eスポーツ系タイトル中心で、ローカルAIとの両立や省スペース性を重視する人には強力な選択肢ですが、最新AAAタイトルをレイトレーシングありで遊びたい人や、将来のアップグレードを前提にしたい人には、専用GPU搭載のデスクトップのほうが向いています。

総評 誇張はあるが、独自の強みも本物

3.5

良い点

  • 内蔵GPUとしては破格の性能で、eスポーツ系やアニメ調3Dタイトルなら快適に遊べる
  • 大容量ユニファイドメモリにより、単体GPUでは実現できないVRAM容量でローカルAIを動かせる
  • ミニPCの筐体で、専用GPU搭載デスクトップに迫るゲーム性能とAI性能を両立できる

気になる点

  • 「RTX 4070超え」の根拠はノートPC用の低電力版との比較で、独立検証では届かない場面もある
  • レイトレーシングとFSR 4は明確な弱点。最新の映像表現では専用GPU機に見劣りする
  • PCIeスロットを持たない機種が大半で、将来のアップグレードは事実上できない

「RTX 4070級」という言葉は、条件次第で本当にもなれば誇張にもなります。ラスタライズ主体のゲームでは健闘する一方、比較対象は専用GPUの中でも下位に近いノートPC版であり、レイトレーシングやアップスケーリングでは明確に見劣りします。それでも、ユニファイドメモリによるローカルAIとの両立という強みは単体GPUでは代替できないものであり、ゲームとAIの両方をコンパクトな1台にまとめたい人にとっては、誇張を差し引いてもなお検討に値する選択肢です。

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