VTuberとして配信を始めたい、あるいは自分のアバターで顔出し配信をしてみたいと思ったとき、多くの方は「配信用ゲーミングPCの選び方」といった記事を参考にすると思います。ただ、そこでよく語られる「配信の快適さはGPUのランクではなくエンコーダの世代で決まる」という結論を、そのままVTuber配信にも当てはめていいのかは、実は少し立ち止まって考える必要があります。

結論から言うと、映像を圧縮して配信先に送るエンコードの話については、その結論は変わりません。ゲーム配信でもVTuber配信でも、この部分はNVENCという専用回路が担当します。ただしVTuber配信には、ゲーム配信にはない工程がもうひとつ乗っかります。顔や表情を読み取るトラッキングと、Live2Dや3Dモデル(VRM)をリアルタイムに描画する処理です。このうち描画の部分にはエンコーダのような専用回路がなく、ゲームと同じGPUの描画資源を使うため、条件によってはGPUのランクが素直に効いてくることがあります。

この記事では、実際に使われているVTube Studio・VSeeFace・nizima LIVEという3つのソフトの公式動作要件を確認したうえで、Live2Dと3Dモデルでどれだけ要求スペックが変わるか、そしてトラッキングの方式(Webカメラ/iPhone/専用トラッカー)でPCへの負荷がどう変わるかを整理します。配信・ゲーム実況用ゲーミングPCの選び方とセットで読むと、自分の配信スタイルに必要な構成がはっきりします。

エンコードの負荷は変わりません、まずここを確認します

前述の配信・ゲーム実況用ゲーミングPCの選び方で整理したとおり、配信映像を圧縮して配信先に送る処理は、GPUの描画回路とは別にあるNVENCという専用のハードウェアエンコーダが担当します。ゲームの描画を担うシェーダーとは別のユニットなので、エンコードがゲームのフレームレートに与える影響は3〜5%程度にとどまります。

この前提はVTuber配信でもそのまま成り立ちます。「配信するから」という理由だけでGPUのランクを上げる必要がない、という結論は変わりません。同記事で扱ったRTX 50シリーズのNVENC搭載基数(RTX 5070は1基、5070 Tiと5080は2基)の話や、配信先によってAV1の恩恵が変わる話も、VTuber配信にそのまま当てはまります。

変わるのは、エンコードより前の段階です。VTuber配信では、ゲーム画面のほかに「自分の顔や表情を読み取る処理」と「その結果でアバターを動かして描画する処理」が新たに加わります。

VTuber配信で新たに加わる2つの工程

配信全体の流れを分解すると、次の5つの処理でできています。このうち①④⑤の3つはゲーム配信にもある工程ですが、②トラッキングと③アバターの描画という2つがVTuber配信で新たに加わります。

①ゲームの描画(既存)
GPUのシェーダーが担当します。設定を上げるほど負荷が増えるのは通常のゲーミングPCと同じです
②トラッキング(新規)
Webカメラやスマートフォンで顔・表情を読み取り、動きのデータに変換する処理です。Webカメラを使う場合はPCのCPUが解析を担当し、iPhoneを使う場合は解析そのものがiPhone側で行われます
③アバターの描画(新規)
②のデータをもとに、Live2Dモデルや3Dモデル(VRM)をリアルタイムに動かして描画する処理です。Live2DならVTube Studioやnizima LIVE、3D(VRM)ならVSeeFaceや3teneといったソフトがこれを担当します
④OBSでの合成(既存)
ゲーム画面・アバターのウィンドウ・オーバーレイなどの映像ソースを一つの配信画面にまとめます。ソースの数が増えるほど負荷は増えますが、通常は軽めです
⑤NVENCエンコード(既存)
④で合成した最終的な映像を圧縮して配信先に送ります。GPU内蔵の専用回路が担当するため、ここはゲームへの影響が小さいままです

ここで注目してほしいのは③です。アバターの描画には、エンコーダのような専用回路がありません。ゲーム画面と同じGPUの描画パイプラインを使って処理されるため、アバターが重ければ、ゲームの描画と資源を取り合うことになります。つまり「配信の負荷はGPUのランクと関係ない」という原則が成り立つのはエンコード(⑤)の話であって、アバターの描画(③)は話が別だということです。

Live2Dは軽く、3Dモデル(VRM)は重い、公式の動作要件で比較する

では実際にどれくらい要求が変わるのか。ここは推測で語らず、各ソフトの公式サイトが公開している動作要件で確認します。

まずLive2Dモデルを動かす代表的なソフト「VTube Studio」です。Steamストアで公開されている動作環境は次のとおりです。

VTube StudioのGPU要件(公式)

Steamストアの動作環境より。必要な専用ビデオメモリの容量

最低要件2GB
推奨要件4GB

CPUも最低1.8GHz以上、推奨でも2.5GHz以上あれば足りるとされており、現行のゲーミングPCであれば最低要件をほぼ確実に上回ります。Live2Dはもともと1枚のイラストをパーツごとに変形させて動かす仕組みで、3Dモデルのようなポリゴンやライティングの計算をしないぶん、要求スペックが控えめです。

ただし同じLive2D向けソフトでも要求スペックには差があります。Live2D社自身が提供する公式トラッキングソフト「nizima LIVE」は、VTube Studioより要求スペックが高めです。そして3Dモデル(VRM)を動かすソフトになると、さらに事情が変わります。

VTube Studio(Live2D)
最低要件はビデオメモリ2GB以上のAMD/NVIDIA製GPU、DirectX11対応。推奨要件でもビデオメモリ4GB以上で足りるとされていますVTube Studio公式Steamページ
nizima LIVE(Live2D)
同じLive2D向けですが、Windows版の推奨GPUとして「NVIDIA GeForce GTX 1060相当以上」を公式に明記しています。CPUは2コア以上・2.5GHz以上、メモリは4GB以上(8GB以上推奨)です。同じLive2Dでもソフトによって要求スペックが異なる一例ですnizima LIVE公式マニュアル
VSeeFace(3Dモデル/VRM)
公式サイトには「最低スペックは分からない」と明記され、具体的な数値要件は示されていません。ただし「複雑な3Dモデルは多くのGPU性能を消費する」「ゲームと配信を同時にするなら、それなりに強力なPCが必要になることがある」と注意書きされていますVSeeFace公式サイト
3tene(3Dモデル/VRM)
VRM形式の3Dアバターに対応したソフトです。Windows版の推奨環境としてCPU Core i7シリーズ、メモリ8GB、GPU GeForce GTX 1050 Ti以上をSteam公式ページで明記しています3tene公式Steamページ

GTX 1050 Ti・GTX 1060はいずれも2016〜2017年発売のミドルクラスGPUで、現行のエントリークラスGPUと比べても控えめな性能です。それでも3teneとnizima LIVEはどちらも「これくらいは欲しい」と名指しで推奨GPUを挙げており、数値を出していないVSeeFaceも「複雑な3Dモデルは多くのGPU性能を消費する」と注意書きしています。3Dモデル(VRM)を使うなら、Live2Dより一段上のGPUを見込んでおく必要があるということです。

なお、3Dモデルの重さはモデル自体の作り込み(動的な影・ハイライト、髪や衣装の物理演算、テクスチャの解像度など)にも左右されます。同じVRMモデルでも、エフェクトを絞った軽量設定にすれば負荷は下がります。GPUを強くするか、モデル側の設定を軽くするかは、両方とも選択肢として持っておくとよいです。

トラッキングの方式でPCへの負荷が変わります

もうひとつ見落とされがちなのが、顔や表情を読み取るトラッキングの方式です。ここもVTube StudioとVSeeFaceの公式情報が、独立してほぼ同じ結論を示しています。

Webカメラでのトラッキング
PC上のソフトがWebカメラの映像を解析して表情を読み取ります。この解析処理そのものがCPUを使うため、ゲームや配信ソフトと同時に動かすとCPUの負荷が積み増しされます。VTube Studio公式は「Webカメラのトラッキングは追加のCPU負荷をもたらす」と説明していますVTube Studio公式Wiki
iPhoneでのトラッキング(ARKit)
iPhone内蔵のARKitで表情を解析し、その結果のデータだけをWi-Fi経由でPCに送ります。解析そのものはiPhone側で行われるため、PC側の負荷はほぼ増えません。VSeeFace公式も「iPhone(またはMeowFaceを使ったAndroid)だけでトラッキングすれば、ほとんどのCPU負荷がなくなる」と説明していますVSeeFace公式サイト
専用トラッカー(体・手など)
VRChatのフルトラッキングのように、腰や手にトラッカーを追加する場合は、顔とは別に処理と通信が増えます。多くはBluetoothやUSBレシーバー経由で、CPU負荷そのものは軽めですが、USBポートや無線帯域を追加で使う点は覚えておいてください

iPhoneでのトラッキングは、PCのCPU負荷をほとんど増やしません。これはVTube Studio・VSeeFaceという別々の開発元が、それぞれの公式情報で独立して同じことを述べているので、信頼度の高い情報だと考えてよいと思います。逆に言えば、Webカメラでのトラッキングは表情の精度を上げようとするほどCPUを使うため、CPU律速になりやすい重量級ゲームを配信しながら使うと、体感のカクつきにつながることがあります。手持ちのiPhoneがFace ID対応機種(iPhone X以降が目安)であれば、トラッキングをiPhone側に任せる選択肢を検討する価値があります。

結局、GPUのランクは見るべきか、配信スタイル別の判断

ここまでの内容を、実際の配信スタイルに落とし込みます。

Live2Dだけで雑談配信(ゲームをしない)
VTube Studioの要求スペックはビデオメモリ2〜4GBと控えめなので、GPUのランクを気にする必要はほとんどありません。NVENCを積んだ入門クラスのGPUで十分です。目安は配信・ゲーム実況用ゲーミングPCの選び方で紹介したRTX 5060 Ti 16GB機(2026年9月時点で21万9,980円〜)です
Live2D+ゲーム配信を同時に
アバターの描画自体は軽いので、判断基準は基本的にゲーム側の要求と変わりません。配信・ゲーム実況用ゲーミングPCの選び方の価格帯表をそのまま参考にしてください
3Dモデル(VRM)+ゲーム配信を同時に
アバターの描画がゲームと同じGPUの資源を取り合うぶん、ゲーム単体で必要な性能よりも一段上に余裕を持たせると安定します。目安としてRTX 5070 Ti以上(同記事で30万9,980円〜)を検討してください

ゲームをしながら3Dアバターを重ねるなら、GPUのランクを一段上げる価値があります。これが、この記事がゲーム配信用の記事と異なる結論を出す唯一の部分です。それ以外の場面、つまりLive2Dで雑談するだけ、あるいはLive2Dでゲーム実況をするだけであれば、既存記事の「GPUのランクよりエンコーダ」という結論をそのまま使って問題ありません(ただしnizima LIVEのように同じLive2Dでもソフトによって要求が上がる場合があるので、使うソフトの公式要件は一度確認しておくと安心です)。

なお、視聴者に見せるのはあくまで合成後の1つの映像です。ゲーム画面とアバターのウィンドウを別々のモニターに表示して作業する方も多く、その場合はモニターがもう1枚必要になります。予算全体の組み方はゲーミングPCの初期費用も参考にしてください。

見落とされがちなこと

PCのスペック以外にも、VTuber配信の快適さを左右する要素があります。

Webカメラの画質と設置位置
Webカメラでトラッキングする場合、カメラの画質そのものより「顔がどれだけ安定して映るか」が重要です。低照度に弱いカメラだと、部屋が暗いときにトラッキングの追従が甘くなることがあります。基準の選び方はウェブカメラ(配信用フェイスカム)の選び方にまとめました
マイクの質
顔を出さずアバターだけで配信するVTuberほど、声の印象がキャラクターの印象に直結します。視聴者が離脱する原因は画質より音であることが多いという点は、通常の配信と変わりません。選ぶ基準はゲーム用マイクの選び方にまとめました
ボイスチェンジャーやミキサーを使う場合
声質を変えたり、BGMとマイク音声を別々に調整したりするなら、単体マイクだけでなくミキサーやオーディオインターフェースが必要になります。詳しくは配信用オーディオインターフェース・ミキサーの選び方にまとめました
ゲーム機の映像にアバターを重ねる場合
PS5やNintendo Switch 2など別機体のゲーム実況にアバターを重ねたい場合は、NVENCが処理できるのは同じPC内で完結する映像だけなので、外部機器の映像を取り込むキャプチャーボードが別途必要です。必要になる条件はキャプチャーボードの選び方にまとめました

よくある失敗

配信用PCの記事だけを見て、GPUを最低ランクにする
Live2Dだけの雑談配信なら問題ありませんが、3Dモデルとゲームを同時に描画する場合はアバターの描画がGPUの資源を取り合います。用途を確認してから決めてください
3Dモデルの設定を作り込みすぎて、実は自分のPCで重い
動的な影やハイライト、物理演算を盛り込むほどGPU負荷は増えます。配信前にモデル単体でどれくらい負荷がかかるか確認しておくと安心です
Webカメラトラッキングのままゲームがカクつくと悩む
表情の精度を上げるほどCPU負荷は増えます。手持ちのiPhoneがあれば、ARKitトラッキングに切り替えるだけでPC側の負荷はほぼなくなります
アバターのウィンドウを配信画面の外に置き忘れる
OBSでウィンドウキャプチャやゲームキャプチャを設定する際、アバターのウィンドウを最小化した状態だと描画が止まることがあります。表示したまま配信画面に取り込む設定になっているか確認してください
音声を後回しにする
アバターの見た目にこだわるあまり、マイクが会議用の内蔵マイクのままということがあります。視聴者はアバターの動きより先に声の違和感に気づきます

よくある質問

Q.VTuber配信用のPCは、普通の配信用PCと何が違いますか?

A.エンコード(映像を圧縮して配信先に送る処理)はNVENCという専用回路が担当するため、ここはゲーム配信と変わりません。違うのは、顔や表情を読み取るトラッキングと、Live2Dや3Dモデルをリアルタイムに描画する処理が新たに加わる点です。特に3Dモデル(VRM)の描画はゲームと同じGPUの資源を使うため、条件によってはGPUのランクが効いてきます。

Q.Live2Dと3Dモデル(VRM)、PCへの負荷はどちらが重いですか?

A.3Dモデルのほうが重い傾向があります。Live2Dの代表ソフト「VTube Studio」の公式要件はビデオメモリ2〜4GBと控えめです。3Dモデル向けの「3tene」は公式にGTX 1050 Ti以上のGPUを推奨しており、要求スペックが一段上がります。「VSeeFace」も公式サイトで複雑な3Dモデルは多くのGPU性能を消費すると説明しています。なお同じLive2D向けでも「nizima LIVE」はVTube StudioよりGPU要件が高めなので、使うソフトの公式要件は個別に確認してください。

Q.顔のトラッキングはWebカメラとiPhoneのどちらがいいですか?

A.PCへの負荷という観点では、iPhoneのARKitを使うトラッキングのほうが有利です。VTube Studio・VSeeFaceの公式情報はいずれも、Webカメラでのトラッキングは解析処理自体がCPUを使うためPCの負荷が増える一方、iPhoneやAndroid(MeowFace)を使う場合は解析がスマートフォン側で行われるため、PCのCPU負荷がほぼ増えないと説明しています。手持ちのiPhoneがFace ID対応機種であれば有力な選択肢です。

Q.Live2Dだけで雑談配信するなら、どのくらいのPCが必要ですか?

A.VTube Studioの公式要件はビデオメモリ2〜4GB、CPU1.8〜2.5GHzと控えめで、現行のゲーミングPCなら最低要件をほぼ確実に上回ります。NVENCを積んだ入門クラスのGPUがあれば足りるので、配信・ゲーム実況用ゲーミングPCの選び方で紹介した入門構成をそのまま使って問題ありません。

Q.ゲームをしながら3Dアバターを重ねて配信したいです。GPUはどれくらい必要ですか?

A.アバターの描画がゲームの描画と同じGPUの資源を取り合うため、ゲーム単体で必要な性能よりも一段上に余裕を持たせることをおすすめします。目安としてRTX 5070 Ti以上のクラスを検討してください。モデル側のエフェクト(動的な影や物理演算)を軽くする設定でも負荷は下げられます。

Q.nizima LIVEや3teneはAMDのグラフィックボードでも動きますか?

A.どちらも公式の動作要件は「NVIDIA GeForce GTX 1060相当以上」「GeForce GTX 1050 Ti以上」とNVIDIA製品を基準に案内されており、Radeon系GPUについての具体的な推奨表記はありません。AMD製GPUで使えるかどうかは公式情報だけでは断定できないため、AMD環境で導入する場合は事前に最新の公式情報を確認することをおすすめします。

まとめ・次に読みたい記事

VTuber配信用のPC選びは、エンコードの部分だけを見れば通常のゲーム配信用PCと変わりません。NVENCが専用回路として処理するため、そこだけを理由にGPUのランクを上げる必要はないという結論は共通です。

違うのは、トラッキングとアバターの描画という2つの工程です。Live2Dは公式要件を見る限り軽量で、GPUのランクはほとんど気にしなくて構いません(ただし同じLive2D向けでもnizima LIVEはVTube Studioより要件が高めです)。一方、3Dモデル(VRM)は3teneが公式にGTX 1050 Ti以上を推奨しているとおり、一段重い処理になります。ゲームをしながら3Dアバターを同時に描画するなら、GPUに余裕を持たせておくと安心です。

トラッキングについては、iPhoneのARKitを使う方法がPCへの負荷という点で有利です。手持ちのiPhoneがFace ID対応機種なら、検討する価値があります。ソフトのアップデートで要求スペックは変わることがあるので、導入前には各公式サイトの最新情報もあわせて確認してください。