グラフィックボードの値上がりが続くなか、「そもそもグラボを積まずに、内蔵GPUだけでゲーミングPCを組めないか」と考える人が増えています。AMDのRyzen 7 8700GやRyzen AI 9 HX 370のように、内蔵GPUだけで軽いゲームなら快適に動く世代のCPU(APU)が現行ラインナップにあるためです。

結論から言うと、遊べるゲームはかなり限定されます。eスポーツ系や数年前までのタイトルなら快適ですが、最新のAAAタイトルやレイトレーシングを前提にした作品は厳しいというのが実力です。さらに、2026年9月時点の実売価格を並べると「グラボなしなら大幅に安い」という前提自体が崩れかけている場面もあります。

この記事では、Radeon 780M/890Mという現行の代表的なゲーミングAPUの実測ベンチマークと、実際にドスパラで買えるBTOの価格を突き合わせ、購入判断につながる形で整理しました。CPUの型番末尾(F・KFなど)による内蔵GPUの有無を扱うグラボ搭載でも内蔵GPUは必要かとは逆の切り口で、こちらは「内蔵GPU・APU単体でどこまで戦えるか」だけに絞っています。なお、同じ内蔵GPUでも演算ユニット数が別格のRyzen AI Max+ 395(Strix Halo)は対象外としています。あちらはRyzen AI Max+ 395ミニPCはゲーミングPCの代わりになるかで個別に検証しました。

結論の早見表 何が快適で何が厳しいか

快適 eスポーツ・軽量タイトル
VALORANT、CS2、Fortnite、Apex Legends(低設定)、原神やゼンレスゾーンゼロのようなアニメ調3Dタイトル、マインクラフトなどは1080pで実用的なfpsが出ます。Radeon 780M/890Mが最も得意とする領域です
条件付きで遊べる 数年前までのAAA
サイバーパンク2077やフォルツァ・ホライズン5クラスのタイトルは、1080p・低設定、FSRのアップスケーリングを併用すれば実用的なfpsに届きます。ネイティブ解像度・高設定では厳しくなります
厳しい 最新AAA・レイトレ前提の作品
直近発売のUE5大作や、モンスターハンターワイルズのように専用GPUでもVRAM管理を求められるタイトルは、設定を絞っても実用的なfpsに届きにくく、事実上の対象外と考えたほうが現実的です

Radeon 780Mと890Mは何が違うのか

内蔵GPU・APUといっても性能差は大きく、まず現行の主役を押さえておく必要があります。

Radeon 780M(RDNA3・12CU)
AM5デスクトップ向けのRyzen 8000Gシリーズの中でも、最上位のRyzen 7 8700Gに搭載されています。ゲームを主目的にできる内蔵GPUとして、現行のデスクトップAPUではほぼ唯一の選択肢ですAMD公式|Ryzen 7 8700G製品ページ
Radeon 890M(RDNA3.5・16CU)
Ryzen AI 9 HX 370・Ryzen AI 9 365などのノートPC・ミニPC向けチップに搭載される上位モデルです。演算ユニットが780Mより4基多く、LPDDR5Tなど高速なメモリにも対応するため、実ゲームで高いfpsが出る傾向があります
下位モデルの780Mより演算ユニットが少ないGPUは別物
同じ8000Gシリーズでも、Ryzen 5 8600Gが積むのはRadeon 760M(8CU)、最下位のRyzen 5 8500Gが積むのはRadeon 740M(4CU)で、いずれも780M(12CU)より演算ユニットが少なくなります。「8000Gシリーズだから同等」と判断しないよう注意してください

890Mを積むRyzen AI 9 HX 370は本来ノートPC向けのチップですが、GEEKOMやMINISFORUM、AOOSTARといったブランドがこれを積んだミニPCを販売しており、デスクトップ代わりに使う人も増えています。

実ゲームでの検証では、Radeon 890Mは780Mより明確に高いfpsを記録したという報告が複数あり、タイトルによっては1割台にとどまることもあれば2倍近くまで開くこともあります。演算ユニットの差に加えて、より高速なメモリを使える設計も効いています。

IntelのCore Ultraは選択肢になるか

Intelにも内蔵GPUを強化したCore Ultraシリーズがありますが、注意が必要なのは「ノートPC向け」と「デスクトップ向け」で内蔵GPUの実力がまったく違う点です。

ノートPC向け(Lunar Lake・Panther Lake)は健闘
Core Ultra 200Vシリーズ(Lunar Lake)のArc 140Vは、GTX 1650に匹敵する性能が報告されており、Radeon 890Mと拮抗する水準です。2026年1月に登場したCore Ultra 300シリーズ(Panther Lake)のArc B390はさらに強化され、890Mを上回ったとする検証も出ています。ただし検証条件によって差の出方は10%台から2倍以上までばらつきが大きく、一概にどちらが上とは言い切れません
デスクトップ向け(Core Ultra 200S)は非力
デスクトップのCore Ultra 200シリーズ(Arrow Lake)が積む内蔵GPUはXe構成でわずか4基分と、ノートPC向けの上位モデルより大幅に簡素です。「Core Ultraだから強い内蔵GPUのはず」という思い込みは禁物で、デスクトップで専用GPUなしのゲーミングを狙うなら、現状はAMDのRyzen Gシリーズのほうが現実的な選択肢です

Radeon 780Mで実際に狙えるfpsの目安

Radeon 780M 1080pでのfpsの目安

複数の検証結果から見た目安の数値です。設定・解像度・ドライバのバージョンによって変動します

VALORANT(高設定)180fps
Fortnite(中設定)130fps
CS2(中設定)100fps
Apex Legends(低設定)80fps
Forza Horizon 5(中設定)60fps
サイバーパンク2077(低設定+FSR)45fps

ハイライトしたサイバーパンク2077が、快適な領域と厳しい領域の境目です。ネイティブ解像度・低設定でも40fps前後まで落ち、FSRのアップスケーリングを併用してようやく実用的な水準に届く、というのが実際のところです。ここから先、さらに要求スペックの高いタイトルになると、設定を最低まで絞っても実用的なfpsを確保するのは難しくなります。

メモリ帯域がボトルネックになる仕組み

内蔵GPUには専用のVRAMがありません。メインメモリの一部を間借りして描画に使うため、メインメモリの速度と構成が、そのまま内蔵GPUの性能上限になります。

デュアルチャンネルは必須
メモリを2枚挿しでデュアルチャンネル動作にすると、メモリ帯域が単純計算で2倍になります。内蔵GPU環境ではこの帯域がボトルネックになりやすく、シングルチャンネル(1枚挿し)のままだと、複数の検証でゲーム性能が大きく落ち込むことが確認されています
メモリのクロックも効く
同じデュアルチャンネルでも、DDR5-4800とDDR5-6000のような速度差はそのままfpsの差につながります。CPU用途では体感しにくい差ですが、内蔵GPUでは無視できません
容量は16GBを最低ラインに
OS・ゲーム本体に加えて描画用のメモリも同じプールから確保するため、8GBでは足りません。内蔵GPUでゲームをするなら16GB、余裕を持たせるなら32GBを検討してください

ここが、内蔵GPU機を選ぶときにいちばん見落とされやすいポイントです。実際に、ドスパラのRyzen 7 8700G搭載モデル(THIRDWAVE AM-R7GIGA-01B)を確認したところ、基本構成のメモリは16GB(16GB×1枚)のシングルチャンネルでした。デュアルチャンネルの16GB(8GB×2)構成に変更するには、カスタマイズで15,000円の追加費用がかかります。「メモリ容量は同じ16GBだから」と基本構成のまま注文すると、内蔵GPUの性能を生かせないまま使うことになるので注意してください。

グラボを積まないと総額はどれだけ下がるのか

ここが、この記事でいちばん伝えたいポイントです。2026年9月時点でドスパラの実売を確認したところ、「内蔵GPUなら大幅に安い」とは言い切れない状況になっていました。

ドスパラ実売 専用GPUの有無による価格比較(2026年9月時点)

いずれもドスパラ公式の実売価格。GPUなしはRyzen 7 8700G+Radeon 780M、GPUありはRyzen 5 7500F+RTX 3050 6GB/Ryzen 7 5700X+RTX 5060

RTX 3050 6GB搭載(Ryzen 5 7500F・16GB DDR5)139980
内蔵GPUのみ(Ryzen 7 8700G・16GB DDR5 単一構成)159980
RTX 5060 8GB搭載(Ryzen 7 5700X・16GB DDR4)174980
内蔵GPUのみ デュアルチャンネル化後(8GB×2)174980

見ての通り、内蔵GPUだけの構成(159,980円)は、専用GPU(RTX 3050 6GB)を積んだ構成(139,980円)より2万円高くつきます。しかもRTX 3050 6GBはRadeon 780Mより素直に速く、VRAMも別枠で確保されます。さらに内蔵GPUの性能を発揮できるデュアルチャンネル構成まで持っていくと174,980円になり、これはRTX 5060搭載機(174,980円)とまったく同額です。同じ金額を払うなら、専用のVRAMを積んだRTX 5060のほうが素直に有利という結果になります。

理由ははっきりしています。DDR5メモリの高騰が続いているためです。内蔵GPU機はメモリの品質・構成が性能に直結するぶん、この高騰の影響をまともに受けます。一方、専用GPU側はRyzen 5 7500FやRyzen 7 5700Xといった型落ち気味のCPUと組み合わせることで、本体価格を抑えられています。「専用GPUを省けば安くなる」という感覚は、メモリが安かった時期の前提であり、2026年9月の実売とは一致していません。

自作で組む場合も同様です。Ryzen 7 8700G単体が44,980円前後、AM5のA620マザーボードが1万円台、そしてデュアルチャンネルのDDR5-6000 32GBキットは57,500円前後からと、メモリだけで本体価格の半分近くを占めます。ここにケース・電源・SSD・Windowsのライセンス費用(DSP版で1万9,000円前後)を積み上げると、BTOの内蔵GPU機とほとんど変わらない金額になることも珍しくありません。自作すれば必ず安くなる、とは限らない点は理解しておいてください。

将来グラボを追加できるか 拡張性の現実

「今は予算がないので内蔵GPUで組んで、あとからグラボを足す」という考え方自体は間違っていませんが、どんな機体を選ぶかで拡張性はまったく変わります。

観点デスクトップ(Ryzen Gシリーズ)ミニPC(Ryzen AI HX370系)
PCIeスロットx16スロットあり(機種による)基本的になし
後からのGPU増設技術的には可能。ケースと電源次第原則不可。eGPU接続に頼るしかない
本体サイズミニタワー〜ミドルタワー手のひらサイズ〜A5程度

デスクトップ向けのAM5マザーボードには標準でPCIe x16スロットがあるため、Ryzen 8000GシリーズのAPUで組んだ場合、あとから専用GPUを挿すこと自体は可能です。実際に、前述のTHIRDWAVE AM-R7GIGA-01Bの仕様を確認すると、PCIe 4.0 x16スロットが1つ空いており、ミニタワーケースでも一般的なミドルクラスのグラボなら収まる余地があります。ただし基本構成の電源は450W(80PLUS BRONZE)と控えめなため、将来グラボを足す前提なら、注文時点で電源容量を上げておいたほうが後々の手間が省けます。

一方、Ryzen AI 9 HX 370のようなノートPC向けチップを積んだミニPCは、そもそも拡張用のPCIeスロットを持たない機種がほとんどです。デスクトップ用の大型グラボを後から挿すことは基本的にできず、性能を底上げしたければThunderbolt/USB4経由の外付けGPU(eGPU)に頼るしかありません。ただしeGPUは対応機種が限られるうえ、エンクロージャとグラボ自体の費用がかさみ、帯域の制限で性能もフルには出ません。詳しくは外付けGPU(eGPU)は買いかで検証しています。

つまり「小型・省電力を取るならミニPC、将来の拡張性を残すならデスクトップのAPU機」という住み分けになります。

買う前によくある失敗

メモリをシングルチャンネルのまま注文する
BTOの基本構成は価格を抑えるためシングルチャンネルになっていることがあります。内蔵GPUを使うなら、必ずデュアルチャンネル(2枚挿し)になっているか確認してください
「内蔵GPUなら安い」という思い込みだけで選ぶ
2026年9月時点の実売では、内蔵GPU機がエントリー帯の専用GPU機より高くつくケースがあります。購入前に同時期の専用GPU搭載機と価格を必ず比較してください
遊びたいゲームの要求スペックを確認せずに買う
eスポーツ系中心なら内蔵GPUで十分ですが、最新のAAAタイトルを遊ぶ予定があるなら力不足です。公式の動作環境を事前に確認しましょう
ミニPCに将来の拡張性を期待する
Ryzen AI HX370系のミニPCはPCIeスロットを持たない機種がほとんどで、後から専用GPUを挿すことは基本的にできません。拡張性が欲しいならデスクトップのAPU機を選んでください

中古で専用GPU機を探すという選択肢について

内蔵GPU機の価格を見て「それなら中古の専用GPU搭載機のほうが安いのでは」と考える方もいるはずです。価格だけを見れば、その通りになることもあります。

ただし、とくに初めての1台としては中古はおすすめしません。理由は保証の有無より先に、不具合が出たときに原因を切り分けられるかどうかです。ゲームがカクつく、突然落ちるといった症状が出たとき、新品であればメーカーに初期不良として相談できますが、中古では経年劣化なのか、前の使用者の酷使によるものなのか、自分の設定の問題なのかを自分で判断しなければなりません。パーツ構成への理解があれば合理的な選択肢になり得ますが、そうでないなら新品のBTOを選んだほうが安心です。詳しくはゲーミングPCは中古でも大丈夫かで解説しています。

よくある質問

Q.グラボなしでもフォートナイトやVALORANTは遊べますか?

A.遊べます。Radeon 780M・890Mともに、これらの軽量なeスポーツタイトルであれば1080pで100fpsを超える水準が複数の検証で報告されています。内蔵GPUがもっとも得意とする領域です。

Q.Radeon 780MとRadeon 890M、どちらを選ぶべきですか?

A.同程度の予算なら890Mを積むほうが有利です。実ゲームで明確に高いfpsが出る傾向があり、タイトルによっては1割台にとどまることもあれば2倍近くまで開くこともあります。ただし890Mはノートパソコンやミニパソコン向けの製品にしか搭載されておらず、デスクトップでAPUを組みたい場合は現状780Mを積むRyzen 8000Gシリーズが選択肢になります。

Q.IntelのCore Ultraは内蔵GPUでのゲーミングに向いていますか?

A.ノートパソコン向けのLunar LakeやPanther Lakeシリーズは、Radeon 890Mと競える水準の内蔵GPUを積んでいます。一方でデスクトップ向けのCore Ultra 200シリーズが積む内蔵GPUは簡素な構成で、専用GPUなしのデスクトップゲーミングを狙うならAMDのRyzen Gシリーズのほうが現実的です。

Q.メモリは何GBあれば十分ですか?

A.最低でも16GB、それもデュアルチャンネル(2枚挿し)が前提です。BTOの基本構成がシングルチャンネルになっている場合があるため、注文時に必ず構成を確認してください。容量は16GBあれば軽量〜中量級タイトルには足りますが、余裕を持たせるなら32GBも検討してください。

Q.内蔵GPU機を買って、あとからグラボを追加できますか?

A.デスクトップのAPU機であれば、PCIeスロットが空いていれば技術的には可能です。ただし基本構成の電源容量が控えめなことが多いため、将来の増設を見込むなら注文時点で電源を上げておくと安心です。Ryzen AI HX370系のミニPCは拡張用スロットを持たない機種がほとんどで、後からのグラボ追加は基本的にできません。

Q.グラボなしにすれば必ず安くなりますか?

A.そうとは限りません。2026年9月時点のドスパラ実売では、内蔵GPUのみの構成(159,980円〜)が、専用GPU(RTX 3050 6GB)を積んだ入門機(139,980円)より高くなっています。DDR5メモリの高騰が背景にあり、必ず両方の実売価格を比較してから判断してください。

総評 遊ぶゲームを絞れるなら選択肢、万能ではない

3.0

良い点

  • eスポーツ系・軽量タイトル中心なら、Radeon 780M・890Mで十分快適に遊べる
  • デスクトップのAPU機ならPCIeスロットが残るため、将来グラボを追加する余地がある
  • 本体を小型・静音・省電力にまとめやすく、動画視聴や普段使いとの両立もしやすい

気になる点

  • 最新のAAAタイトルやレイトレ前提の作品は、設定を絞っても実用的なfpsに届きにくい
  • デュアルチャンネル化などの正しい構成にすると、2026年9月時点でエントリーの専用GPU機と価格差がほぼ消える
  • ミニPC型はほぼ拡張性がなく、性能が足りなくなったときの逃げ道が限られる

内蔵GPU・APUだけでゲームができるかという問いへの答えは、「遊ぶゲームを絞れるなら、できる」です。ただし2026年9月時点の実売価格を見る限り、専用GPUを省くことが必ずしも節約にはつながっていません。購入前には、遊びたいタイトルの動作要件と、同時期の専用GPU搭載機の実売価格の両方を確認してから判断してください。

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