「停電でPCが壊れたら怖い」「セーブデータが飛んだら困る」——UPS(無停電電源装置)を調べ始める動機は、たいていこのあたりだと思います。

先に結論をお伝えすると、多くの方にUPSは必要ありません。日本の停電は、1軒あたり年0.13〜0.17回という水準まで下がっているためです。

ただし、必要な人には確実に意味があります。そしてその場合、選び方を間違えると逆効果になるという厄介な落とし穴があります。安いUPSを買ったせいで、かえって電源ユニットを痛めるという事態が起こり得ます。

この記事では、必要かどうかの判断材料と、買う場合に外してはいけない条件を整理します。

日本の停電は、想像よりずっと少ないです

判断の土台になるのが、実際にどれくらい停電するのかという数字です。

電力各社の統計によると、1軒あたりの年間停電回数は0.13〜0.17回、年間の停電時間は10〜36分という水準です(2020〜2024年度)。1985年度には0.90回・128分でしたから、設備の整備が進んだことで大きく改善しています。

年0.13回ということは、おおむね7〜8年に1回という頻度です。しかも1回あたり数十分。この数字を見てから、UPSに数万円を投じる価値があるかを考えてみてください。

ただし、この統計に含まれないものがあります。瞬時電圧低下(瞬低)と呼ばれる、数十ミリ秒から数秒の電圧の落ち込みです。落雷の多い時期や地域によっては、統計上の停電回数以上に体感の頻度が高いことがあります。「時々ブレーカーが落ちる」「雷が鳴るとPCが再起動する」という心当たりがあるなら、話は変わってきます。

停電で実際に何が起きるのか

では、電源が突然切れると何が困るのでしょうか。誤解も多いところなので整理します。

作業中のデータは失われます
保存していないセーブデータや作業ファイルは消えます。これがいちばん現実的な被害です
書き込み中のファイルが壊れることがあります
OSの更新中やゲームのインストール中など、ストレージへ書き込んでいる最中の電断は、ファイルの破損につながります
ハードウェアが即座に壊れることは稀です
電源が切れただけでPCが物理的に壊れるケースは多くありません。ただし繰り返せば、電源ユニットやストレージの寿命には影響します
本当に怖いのは雷サージです
落雷による過大な電圧が電源線や通信線から入ると、機器が一撃で壊れることがあります。これは停電とは別の現象です

つまり、日常的なリスクは「保存していないデータが消える」ことで、致命的なリスクは「雷サージ」という整理になります。そしてこの2つは、対策の手段が違います。

買うなら、正弦波出力が絶対条件です

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。UPSを買うと決めたなら、この条件だけは絶対に外さないでください。

UPSがバッテリーから電力を供給するとき、出力する波形には2種類あります。

正弦波(せいげんは)
家庭のコンセントに来ている電気と同じ、なめらかな波形です。価格は高くなります
矩形波(くけいは・疑似正弦波)
階段状の簡易な波形です。安価ですが、機器を選びます

問題は、ゲーミングPCの電源ユニットがほぼすべて「アクティブPFC」という方式だという点です。この回路は入力される電気が正弦波であることを前提に設計されています。

そこへ矩形波を入れるとどうなるか。バッテリーへ切り替わった瞬間にPCの電源が落ちる、というトラブルが起こり得ます。停電に備えて買ったUPSが、停電の瞬間にPCを落とすという本末転倒な結果です。仮に動作したとしても、電源ユニットに負荷がかかり寿命を縮めます。

安価なUPSは矩形波であることが多いため、価格だけで選ぶと確実に失敗します。製品仕様で「正弦波出力」と明記されているかを必ず確認してください。

容量の決め方

次に容量です。UPSの表記には「VA」と「W」の2つがあり、混乱しやすいところです。

まず自分のPCの消費電力を把握する
ミドルクラスのゲーミングPCで、ゲーム中の実消費は400W前後が目安です。モニターを足して450W程度と考えてください
VAとWの関係
アクティブPFC電源は力率が0.95以上と高いため、VAとWはほぼ同じ数字になります。安全を見てもW × 1.3程度で足ります
定格の7〜8割で使う
UPSは定格いっぱいで使うと余裕がありません。450Wを賄うなら、出力500W以上(1000VA前後)のモデルを目安にしてください

なお、電源ユニットの容量(750Wや850W)と実際の消費電力は別物です。850Wの電源を積んでいても、実際に消費しているのが400Wなら、UPSは400Wを賄えれば足ります。この点はゲーミングPCの電気代でも詳しく扱っています。

稼働時間の考え方

もうひとつ、よくある誤解を解いておきます。UPSは停電中もゲームを続けるための装置ではありません。

バッテリーで賄える時間は、ゲーミングPCの負荷だと数分程度です。目的は「安全にファイルを保存し、シャットダウンする時間を稼ぐこと」であって、プレイの継続ではありません。長時間の給電を期待して選ぶと、必要な容量が跳ね上がり現実的でなくなります。

給電方式は3種類あります

製品を見比べると「常時商用」「ラインインタラクティブ」といった表記が出てきます。オムロンの分類に沿って整理します。

常時商用給電方式
通常は商用電源をそのまま出力し、同時にバッテリーを充電します。小型軽量で消費電力も少ない反面、バッテリーへ切り替わるときに瞬断が発生します
ラインインタラクティブ方式
電圧を安定化する機能を備え、通常時も電圧を調整して供給します。高機能でありながら比較的安価で、個人用途ではここが現実的な選択肢です
常時インバータ給電方式
常にインバータを経由して出力するため、切り替え時の瞬断がありません。最も安定していますが、価格と消費電力は上がります

個人のゲーミングPCであれば、正弦波出力のラインインタラクティブ方式が価格と性能のバランスとして妥当なところです。

価格は、思っているより高めです

判断に直結するので、実際の価格も見ておきましょう。オムロンのBYシリーズ(すべて正弦波出力)の標準価格は次のとおりです。

BY35S — 350VA/210W
標準価格37,000円(税抜)。ゲーミングPCには容量が足りません
BY50S — 500VA/300W
標準価格43,100円(税抜)。こちらもゲーミングPCには不足です
BY80S — 800VA/500W
標準価格70,800円(税抜)。ミドルクラスのゲーミングPCなら、ここがひとつの目安になります
BY120S — 1200VA/720W
標準価格92,100円(税抜)。上位構成やモニターを複数つなぐ場合に

前述のとおり、ミドルクラスのゲーミングPCとモニターで450W前後。これを賄うにはBY80Sクラスが必要で、標準価格は7万円台になります。実売価格はこれより下がりますし、他社にはより安い製品もありますが、それでも数万円の出費です。

ここで冒頭の数字を思い出してください。停電は7〜8年に1回、年間10〜36分です。20万円のPCを守るために数万円を追加で払うかどうか——費用対効果で考えると、多くの方にとって答えは出やすいのではないでしょうか。

なおバッテリーは消耗品で、数年ごとに交換が必要になります。この費用も見込んでおいてください。

UPSより先に、やっておきたいこと

冒頭でお伝えしたとおり、多くの方にUPSは必要ありません。ただし停電対策そのものが不要というわけではないので、費用対効果の高い順に挙げます。

雷サージ付きの電源タップを使う
数千円で買えます。致命的な被害をもたらすのは停電ではなく雷サージなので、費用対効果でいえばここが最優先です。LANケーブル経由の侵入もあるため、対応した製品を選べるとより安心です
こまめに保存する習慣をつける
身も蓋もありませんが、実害のほとんどは「保存していなかった」ことに起因します。オートセーブの間隔を確認しておくだけでも違います
大事なデータはクラウドか外部へ
電源の問題に限らず、ストレージはいつか壊れます。バックアップがあれば、電断のリスクは大幅に下がります
雷が近いときは電源を切る
原始的ですが確実です。落雷が予想される日に長時間離席するなら、コンセントを抜いておくのが最も安全です

こういう人には必要です

必要性が高い
配信中に落ちると困る方、地域的に停電や瞬電が多い方、長時間の書き出しやレンダリングを回す方、自宅がサーバーやNASを常時稼働させている環境の方
優先度は低い
普通に遊ぶだけの方、停電の記憶がほとんどない方、こまめに保存できている方。この場合は雷サージ付きタップで十分です

配信をしている方は、途中で落ちると視聴者にも影響が出るため、投資する価値があります。詳しい構成は配信・ゲーム実況用ゲーミングPCの選び方にまとめました。

よくある質問

Q.ゲーミングPCにUPSは必要ですか?

A.多くの方には不要です。日本の停電は1軒あたり年0.13〜0.17回、年間10〜36分という水準で、おおむね7〜8年に1回という頻度です。ただし配信をしている方、地域的に停電や瞬電が多い方、長時間の書き出しを回す方には意味があります。

Q.安いUPSを買っても大丈夫ですか?

A.波形を必ず確認してください。安価な製品は矩形波(疑似正弦波)出力のことが多く、ゲーミングPCのアクティブPFC電源とは相性が悪いためです。バッテリーへ切り替わった瞬間にPCが落ちる、電源ユニットの寿命を縮めるといった問題が起こり得ます。正弦波出力と明記された製品を選んでください。

Q.UPSがあれば停電中もゲームを続けられますか?

A.続けられません。ゲーミングPCの負荷では、バッテリーで賄える時間は数分程度です。UPSの目的は、安全にファイルを保存してシャットダウンするまでの時間を稼ぐことにあります。

Q.容量はどれくらい必要ですか?

A.ミドルクラスのゲーミングPCはゲーム中で400W前後、モニターを足して450W程度が目安です。定格の7〜8割で使うことを考えると、出力500W以上(1000VA前後)が目安になります。なお電源ユニットの容量(750Wなど)ではなく、実際の消費電力で計算してください。

Q.停電でPCは壊れますか?

A.電源が切れただけで物理的に壊れることは多くありません。現実的な被害は、保存していないデータが消えることと、書き込み中のファイルが破損することです。ただし本当に怖いのは落雷による雷サージで、これは機器を一撃で壊すことがあります。

Q.UPSと雷サージ付きタップ、どちらを買うべきですか?

A.多くの方には雷サージ付きタップをおすすめします。数千円で買えるうえ、致命的な被害をもたらす雷サージに対応できるためです。UPSは停電時のデータ保護が主目的なので、停電の頻度が高い環境や、落ちると困る用途がある場合に検討してください。

まとめ・次に読みたい記事

日本の停電は1軒あたり年0.13〜0.17回、時間にして年間10〜36分です。7〜8年に1回という頻度を考えると、多くの方にとってUPSの優先度は高くありません。まずは数千円の雷サージ付きタップと、こまめな保存で十分です。

一方で、配信中に落ちると困る方や、停電・瞬電の多い地域にお住まいの方には価値があります。その場合は正弦波出力を絶対条件として選んでください。矩形波の安価な製品は、ゲーミングPCの電源と相性が悪く、かえって問題を招きます。

そして容量は、電源ユニットの表記ではなく実際の消費電力から計算してください。仕様や価格は変わりますので、購入前に最新情報をご確認ください。