BTOのゲーミングPCを選んでいると、「Core Ultra搭載」「AI対応」「AI PC」「Copilot+ PC対応」といった表記を見かけることが増えました。CPUのグレードを上げると価格も数万円上がるため、これはゲーム性能のためなのか、それとも別の何かのためなのか、判断に迷った人は多いはずです。

結論から言うと、NPU(AI処理専用の演算回路)はゲームのフレームレートにはほぼ関係しません。DLSSやFSRといったAIアップスケーリング機能はGPU側のまったく別の回路が担当しており、CPUのNPUは出る幕がありません。しかも厄介なことに、ゲーミングデスクトップに使われるCPUのNPUは、そもそもMicrosoftが定めるCopilot+ PCの基準にすら届いていないケースがほとんどです。

このページでは、NPUのTOPSとGPUのAI性能がなぜ混同されるのかという構造から整理し、Intel・AMD・Qualcommそれぞれの実装、BTOで「AI対応」CPUを選んだときの実際の価格差、NPUが本当に役立つ場面までまとめて解説します。ゲーミングPC選びで「AI対応」オプションに追加料金を払う価値があるかどうか、正直に判断材料を示します。

Copilot+ PCの要件とNPUの基本

Copilot+ PCは、Microsoftが定義したWindows 11の新しいPCカテゴリです。Microsoft公式のWindows 11仕様ページでは、通常のWindows 11システム要件に加えて、次の条件を満たすことがCopilot+ PC認定の条件だと明記されています。

NPU性能 40 TOPS以上
対応プロセッサとして、AMD Ryzen AI 300/400シリーズ、Intel Core Ultra 200V/300Vシリーズ、Snapdragon Xシリーズが名指しで挙げられています。
メモリ 16GB以上
DDR5またはLPDDR5。ローカルでAIモデルを動かすため、8GBでは不足するとされています。
ストレージ 256GB以上
SSDまたはUFS。AIモデルや生成物の保存を見込んだ容量です。

ここで見落とされがちなのが、Microsoftが名指ししているのは「Core Ultra 200V/300V」であって「Core Ultra 200S」ではないという点です。Vが付くのはノート向けの低消費電力設計(Lunar Lake以降)で、ゲーミングデスクトップに使われる200S(Arrow Lake)とは別物です。この違いが、後述する「デスクトップはCopilot+ PCになれない」問題につながります。

各社のNPU実装とTOPS値

NPUのTOPS性能は、メーカーと世代によってかなりばらつきます。ゲーミングPCで実際に候補になりやすいCPUを中心に、公式発表値を並べました。

CPU内蔵NPUの性能(TOPS)

各社公式発表値。INT8ベース。Copilot+ PCの基準ラインは40 TOPS

Snapdragon X2 Plus(Qualcomm・ARM)80 TOPS
Snapdragon X Elite(Qualcomm・ARM)45 TOPS
Ryzen AI 300シリーズ(AMD・XDNA2/HX370等)50 TOPS
Core Ultra 200V/300V(Intel・Lunar Lake系)48 TOPS
Core Ultra 200HX/200S(Intel・Arrow Lake系)13 TOPS
Ryzen 7000/9000シリーズ デスクトップ(AMD)0 TOPS

Q.なぜIntelだけデスクトップのNPUが弱いのですか

A.Core Ultra 200S(Arrow Lake)のNPUは前世代のMeteor Lakeと同じ設計を引き継いでおり、13 TOPSにとどまります。一方、ノート向けのLunar Lake(200V)やモバイル新世代(300V)は設計を刷新し48 TOPSまで引き上げられました。デスクトップとノートで別のNPU世代が使われているのが実情です。

Q.デスクトップのRyzenにNPUはありませんか

A.Ryzen 7000/9000シリーズ(7700、9800X3D、9950X3Dなど、ゲーミングデスクトップに使われるモデル)にはNPUが搭載されていません。AMDのNPUは基本的にノート向けの「Ryzen AI」シリーズに限られます。

Snapdragon Xシリーズは数値だけ見ると最も高性能ですが、ARMアーキテクチャのため、x86向けに作られたゲームの多くはエミュレーション経由での実行になります。Windows on ARMのゲーム対応は改善が続いているものの、ネイティブ動作するタイトルはまだ限られており、ゲーミングPCの選択肢としては現状おすすめできません。

NPUのTOPSとGPUのAI性能は別物です

ここが、この記事でいちばん伝えたいポイントです。「TOPS」という同じ単位が使われるせいで、NPUの性能とGPUのAI性能が同じ土俵の話だと誤解されがちですが、実際は担当する回路も桁もまったく違います。

NVIDIA公式のプレスリリースでは、RTX 5090が搭載する第5世代Tensorコアの性能を「3,352 TOPS」と発表しています。CPUのNPUが40〜50 TOPS程度であるのに対し、GPUのTensorコアは桁が2つ違います。

NPU(CPU内蔵)とGPUのAI性能を並べると

NPUはINT8、GPUのTensorコアはFP4 sparseと算出方法が異なるため厳密な比較はできませんが、扱う回路の規模がまったく違うことは分かります

CPU内蔵NPU(Copilot+基準・40〜50 TOPS帯)50 TOPS
RTX 5090のTensorコア(第5世代・FP4 sparse)3352 TOPS

この差が生まれる理由は単純で、そもそも役割が違うからです。

DLSS・FSRを処理しているのはGPU側の回路です
NVIDIA公式によれば、DLSSはGPUに搭載された専用のTensorコアで実行されるとされています。AMDのFSR4も、RDNA 4に搭載された「AIアクセラレータ」が処理を担うとAMD公式が説明しており、いずれもCPUのNPUとは無関係の別回路です。
NPUは低消費電力でAIタスクをこなすための回路です
NPUはノートPCのバッテリー駆動時間を延ばしつつ、常時起動のAI機能(音声処理・カメラ補正など)を動かすことに最適化された設計です。GPUのように大量の演算をぶつける用途とは目的が違います。
GPUはゲーム描画のために元々AI性能が高いのです
RTX 50シリーズやRadeon RX 9000シリーズはレイトレーシングとAIアップスケーリングを前提に設計されており、NPUが登場するはるか前からAI向けの演算回路(Tensorコア・AIアクセラレータ)を積んでいます。

つまり、ゲーミングPCを選ぶ上でAIアップスケーリングの性能を気にするなら、見るべきはCPUのNPUではなくGPUの世代とモデルです。GPU選びの基準はグラフィックボードの選び方にまとめています。

デスクトップのゲーミングPCは、いまCopilot+ PCになれません

前の章で触れたとおり、Copilot+ PC認定には40 TOPS以上のNPUが必須です。ここでゲーミングデスクトップの実情を当てはめると、かなり厳しい現実が見えてきます。

Intel Core Ultra 200S(デスクトップ)は13 TOPSで基準未達
265F・265K・285Kなど、GALLERIAやLEVEL∞のゲーミングデスクトップに使われるCore Ultra 200シリーズは、Intel公式仕様で「NPU Peak TOPS(Int8): 13」と明記されています。Copilot+ PCの基準である40 TOPSには遠く及びません。
デスクトップのRyzen(7700・9800X3Dなど)はNPU非搭載
そもそもNPUという回路自体を積んでいないため、Copilot+ PCの議論以前の話になります。
AMDのCopilot+対応デスクトップ用チップは存在するが、ゲーミングPC向けではない
AMDは2026年に「Ryzen AI 400」というAM5向けの最大60 TOPS・XDNA 2 NPU搭載チップを発表しましたが、これは内蔵グラフィックス中心の省スペースPC向けAPUで、単体販売(BOX品)はされずOEM向け限定です。GeForce RTX 50シリーズなどのディスクリートGPUを積む構成では、現状ラインアップに登場していません。

まとめると、2026年8月時点で、ディスクリートGPUを積んだゲーミングデスクトップPCが正規にCopilot+ PC認定を受けることは、Intel・AMDどちらの構成を選んでも事実上できません。実際、ドスパラのCopilot+ PC推奨モデルのページで紹介されているのもノートパソコンのみで、GALLERIAのデスクトップゲーミングPCは一台も掲載されていません。

ゲーミングノートなら話が変わります

デスクトップと違い、ノートパソコンでは条件を満たす組み合わせが実在します。ただしメーカーによって明暗が分かれます。

AMDのRyzen AI 300(HXクラス)はCopilot+対応かつ高性能GPUと組める
Ryzen AI 9 HX 370/375はNPU最大50 TOPSでCopilot+ PC認定済みです。ASUS ROG Zephyrus G14のようにRTX 5070 Tiクラスと組み合わせた製品も存在し、ゲーミング性能とCopilot+機能を両立できます。
IntelのHXクラスはCore Ultra 200V/300Vと世代が違います
ゲーミングノートに使われるCore Ultra 200HX(Arrow Lake系)のNPUは13 TOPSで、Copilot+の基準に届きません。48 TOPSに達するのはCore Ultra 200V/300V(Lunar Lake系)ですが、こちらは薄型・省電力向けの設計で、高性能な単体GPUとの組み合わせは主流ではありません。
AMDの最速ゲーミング構成にはNPUがありません
3D V-Cacheを積んだRyzen 9 9955HX3D(Fire Range)は、当サイトのノートCPU性能比較でもゲーム最強格としていますが、デスクトップ由来の設計のためNPUを搭載していません。ゲーム性能を最優先するとCopilot+機能は選択肢から外れる、という逆転現象が起きています。

ノートパソコンの選び方全般はゲーミングノートPCの選び方で詳しく解説しています。

BTOで「AI対応」CPUを選ぶと、いくら高くなるか

ここまでの内容を踏まえて、実際にBTOで価格差がどれくらい出るのかを確認します。ドスパラのGALLERIAで、GPU・メモリ・SSD容量をすべて揃え、CPUだけを変えて比較しました(2026年8月22日時点、ドスパラ公式サイトで確認)。

RTX 5070・16GB DDR5・1TB構成 / Ryzen 7 7700搭載
GALLERIA XPR7A-R57-GD=284,980円
RTX 5070・16GB DDR5・1TB構成 / Core Ultra 7 265F搭載
GALLERIA XPC7A-R57-GD=334,980円(Ryzen構成より50,000円高い)

GPU・メモリ・SSDが完全に同一の構成で、CPUをCore Ultra 7 265Fに変えるだけで5万円の価格差が付きます。しかも、この265FのNPUは13 TOPSしかなく、Copilot+ PCの基準を満たしません。つまりこの5万円は「AI機能への対価」ではなく、単純にコア数や設計が異なる別のCPUを選んだことによる価格差です。ゲーム性能で選ぶなら、この5万円をGPUのグレードアップや大容量SSDに回したほうが体感の差は大きくなります。BTO各社の価格の傾向はBTOメーカー徹底比較、CPU単体の選び方はCPUの選び方を参考にしてください。

それでもNPUが役立つ場面はあります

NPUがゲームの役に立たないからといって、まったく無意味というわけではありません。Copilot+ PCの機能は、ゲーム以外の用途で日常的にPCを使う人には実利があります。

ビデオ通話の画質・音質補正(Windows Studio Effects)
背景ぼかし・視線補正・自動フレーミングなど。実は13 TOPS程度の低性能なNPUでも一部の効果は動作しますが、ポートレートライティングやクリエイティブフィルターなど高度な効果は40 TOPS以上のCopilot+ PCでのみ使えます。配信や通話用にサブPCを兼ねるなら意味があります。
リアルタイム字幕・翻訳(ライブキャプション)
PC上で流れる音声をその場で字幕化・翻訳できる機能です。日本語未対応の海外実況やDiscordのボイスチャットを追いたい場合に使えますが、40 TOPS以上のCopilot+ PCが前提です。
簡易的な画像生成・編集(Cocreator、生成消しゴムなど)
Windowsペイントやフォトアプリに組み込まれた軽量な生成AI機能です。本格的な画像生成をしたいなら、結局GPUのVRAM量がものを言うため、NPUだけでは完結しません。

配信やSNS投稿用の動画編集、ちょっとした画像加工まで一台でこなしたい人にとっては、Copilot+ PCの機能はあると便利です。ただし、その用途を主目的に据えるなら、そもそもゲーミングデスクトップより薄型のCopilot+ PC対応ノートを別に用意したほうが、消費電力や静音性の面でも理にかなっています。

結局、ゲーミングPC選びでNPUはどう扱えばいいか

ゲーム性能が最優先ならNPUは判断材料から外してよい
フレームレートにはまったく影響しません。同じ予算ならGPUのグレードやメモリ容量に回すほうが体感差は大きくなります。
デスクトップで「AI対応」を理由にCore Ultraを選ぶ必要はない
そもそも13 TOPSではCopilot+ PCの基準を満たさず、実質的な恩恵はほぼありません。5万円前後の価格差に見合うだけの用途があるかを冷静に考えてください。
AIの副次機能を本気で使いたいなら、ノートで機種を選び直す
ゲーミングデスクトップではなく、Ryzen AI 300シリーズ搭載のCopilot+ PC対応ノート(単体GPUと両立した機種であればゲームも兼用できます)を検討するのが筋です。
DLSS・FSRの性能を気にするならGPUを見る
AIアップスケーリングの実力を左右するのはGPUのTensorコア/AIアクセラレータの世代です。CPU側のNPUとは無関係です。

よくある質問

Q.NPUを搭載したCPUを選ぶと、ゲームのフレームレートは上がりますか

A.上がりません。NPUはゲーム描画のパイプラインに関与しておらず、DLSSやFSRといったAIアップスケーリングもGPU側のTensorコア・AIアクセラレータが処理しています。ゲーム性能で選ぶなら、NPUの有無やTOPS値は判断材料にする必要がありません。

Q.ゲーミングデスクトップPCはCopilot+ PCになれますか

A.2026年8月時点では、事実上できません。デスクトップ向けIntel Core Ultra 200シリーズのNPUは13 TOPSで、Copilot+ PC認定に必要な40 TOPSに届きません。デスクトップのRyzenはそもそもNPUを搭載していません。AMDのCopilot+対応デスクトップ用チップ(Ryzen AI 400)も内蔵グラフィックス向けのOEM専用APUで、ディスクリートGPUを積むゲーミングPCには使われていません。

Q.「AI対応」と書かれたBTOゲーミングPCは何がAI対応なのですか

A.多くの場合、CPUにNPUが搭載されていることを指しているだけで、Copilot+ PC認定を意味するとは限りません。特にデスクトップのCore Ultra搭載機は13 TOPSのNPUしか積んでおらず、Recallやライブキャプションなど本来のCopilot+ PC専用機能は使えません。購入前に「NPUのTOPS値」と「Copilot+ PC認定の有無」を分けて確認してください。

Q.NPUのTOPSとGPUのAI性能(TOPS)は同じ意味ですか

A.単位の名前は同じですが、まったく別の回路の性能を表しています。CPU内蔵のNPUは40〜50 TOPS程度が主流ですが、NVIDIA RTX 5090のTensorコアは公式発表で3,352 TOPSに達します。算出方法(INT8とFP4 sparseなど)が異なるため単純比較はできませんが、担当する回路の規模がまったく違う点は共通して言えます。

Q.ゲーミングノートPCでCopilot+ PCに対応した機種はありますか

A.AMDのRyzen AI 300シリーズ(HX 370・HX 375など)を搭載した機種であれば、NPUが最大50 TOPSに達しCopilot+ PC認定を受けられます。RTX 5070 Tiクラスのディスクリートグラフィックスと組み合わせた製品も存在します。一方でIntelのCore Ultra 200HXや、AMDのゲーミング最上位であるRyzen 9 9955HX3D(Fire Range)はNPUを搭載していないか性能が低く、Copilot+ PCの対象外です。

Q.NPUが本当に役立つのはどんな人ですか

A.ビデオ通話の背景ぼかしや視線補正を多用する人、海外配信のリアルタイム翻訳・字幕を使いたい人、Windowsペイントの生成AI機能で簡単な画像編集をしたい人には実利があります。ゲームプレイ自体には影響しないため、ゲーム専用機として組むなら優先度は低くなります。

まとめ・次に読みたい記事

NPUはAI処理専用の回路ですが、ゲームのフレームレートには関与しません。DLSSやFSRを支えているのはGPU側のTensorコア・AIアクセラレータであり、CPUのNPUとは完全に別物です。

さらにゲーミングデスクトップに限って言えば、Intel Core Ultra 200シリーズのNPUは13 TOPSしかなく、Copilot+ PCの基準である40 TOPSに届いていません。BTOで「Core Ultra搭載」を選ぶと同じGPU構成で5万円前後の価格差が付きますが、その対価としてCopilot+ PCの機能が手に入るわけではないのが実情です。ノートパソコンであればAMDのRyzen AI 300シリーズなど条件を満たす選択肢もありますが、ゲーム性能を最優先するならNPUの有無は気にせず、GPUとメモリに予算を回すのが合理的です。