BTOの注文画面に、セキュリティソフトの欄があります。買ったPCには30日の体験版が入っていて、期限が切れると毎日のように更新をうながされます。
入れるべきなのか、Windows標準のままでいいのか。この判断は「無料か有料か」ではなく、何から守りたいのかで決まります。しかも2026年のデータを見ると、よく言われている前提が1つ崩れています。
順番に確認していきましょう。
Defenderの検出力は足りているのか
まずここを片付けます。「無料だから弱い」という前提は、いまの測定結果と合いません。
AV-Comparativesが2026年3月に実施したMalware Protection Testでは、10,030個のサンプルを使った試験で、Microsoft Defenderのオンライン総合保護率は99.93%でした。有料製品と並ぶ水準です。
もちろん、どの製品でも100%にはなりません。検出は最後の砦であって、そこに全部を賭ける前提が間違っています。この点は後半でもう一度触れます。
ここまでで言えるのは、「検出力が心配だから有料を買う」という理由は2026年時点では弱いということです。
「軽いからDefender」は、2026年のデータでは逆でした
ゲーミングPCの記事でよく見るのが「サードパーティのセキュリティソフトは重いからDefenderで十分」という説明です。ところがAV-Comparativesの2026年4月のPerformance Testを見ると、順位はきれいに逆でした。
セキュリティソフトの負荷(Total Impact Score)
AV-Comparatives 2026年4月。数値が小さいほど軽い。テスト機はCore i3・メモリ8GB・SSD・Windows 11
Defenderは全12製品中11位です。上位の製品とは4倍近い差がついています。
ただし、この数字をそのまま「Defenderは重い」と読むのも早すぎます。同じテストの内訳を見ると、実際のアプリを使うワークロード(UL Procyon)のスコアではMicrosoftが97.1で、1位のMcAfee(96.7)より上に出ています。つまり指標を変えると順位が入れ替わるということです。
- Defenderが不利なのはファイル操作です
- ファイルのコピー、書庫の展開、アプリのインストールと起動といった項目で差がつきます。上位製品はスキャン済みファイルの扱いが賢く、二度目以降を省く仕組みを持っています
- テスト機はゲーミングPCより非力です
- Core i3とメモリ8GBの環境なので、差が出やすい条件です。Ryzen 7とメモリ32GBのPCで同じ比率の差が出るとは限りません
- fpsへの影響はほぼ誤差です
- ゲーム実行中は新しいファイルの読み書きが少ないため、リアルタイム保護が効く場面が限られます。fpsを上げる目的でセキュリティを切るのは、効果に対してリスクが釣り合いません
体感として出やすいのは、ゲームのダウンロード直後の展開処理と大型アップデートです。ここはSSDへの細かい書き込みが大量に発生する場面で、スキャンと正面衝突します。実際にSSDの使用率が100%に張り付く原因の1つがこれで、SSDの使用率が100%でPCが固まる原因で扱ったAntimalware Service Executableがまさにその犯人です。
BTOのオプションは買う価値があるか
ここが注文画面での実際の判断です。金額を並べると、答えははっきりします。
- プリインストールは体験版です
- ドスパラとパソコン工房はノートンで、標準では30日の体験版が入った状態で届きます。期限が切れるとほぼ機能しなくなり、更新をうながす通知だけが残ります
- ドスパラはPC同時購入で1,100円です
- ノートン360 スタンダードの1年版が税込1,100円です。カスタマイズ画面のセキュリティソフト欄から選びます
- 単体で買うと4,780〜5,280円です
- 同じノートン360 スタンダードの1年1台版は、公式で5,280円、価格.comの最安でも4,780円前後です。同時購入は4分の1近くになります
- パソコン工房は15か月バンドルです
- 対象モデルのカスタマイズで、ノートン360 スタンダードの15か月バンドル版を選べます。PCとスマートフォンなど最大2台までが対象です
- 2年目は定価に戻ります
- 自動更新の契約になるため、安いのは初年度だけです。1年後に続けるか解約するかを決める前提で選んでください
当サイトではBTOのカスタマイズは何を足すべきかで、後付けできるものは注文時に足さないほうが安い場合が多いと書きました。セキュリティソフトはその例外です。ソフトのバンドルは同時購入がはっきり安く、後から単体で買うと数倍になります。
逆にいちばん避けたいのは、体験版のまま期限切れで使い続けることです。この状態は保護が切れているのに、Defenderも自動では戻らないことがあります。
ゲーマーが実際に踏むのは「ウイルス」ではありません
ここが記事の本題です。守り方を決める前に、何が来るのかを見てください。
いま目立つのは、昔ながらのウイルスではなく情報窃取型(インフォスティーラー)です。2025年2月には、Steamで無料配信されていた「PirateFi」にVidarと呼ばれる情報窃取型が仕込まれていました。配信されたのは2月6日から12日までのわずか1週間で、最大1,500人が対象と見られています。狙われたのは、ブラウザに保存されたパスワード、暗号資産ウォレットの認証情報、そしてセッションCookieです。
このときValveは、影響を受けたユーザーに対してOSの再インストールまで検討するよう案内しました。入られた後は、セキュリティソフトの検出では取り返せないということです。
このセッションCookieが厄介です。盗まれると、パスワードも2段階認証も通さずにログインされます。認証を通した後の状態そのものを持っていかれるからです。
2026年7月には、Steamの掲示板の投稿を経由してマルウェアの導入手順を踏ませる手口も報じられました(GameBusiness.jp)。怪しい実行ファイルを配るだけでなく、正規のプラットフォームの中に導線を置くやり方に移っています。
- 経路の共通点は「自分で実行している」ことです
- 無料ゲーム、非公式MOD、チートツール、Discordで送られたリンク。どれもユーザーが自分でダウンロードして起動しています。セキュリティソフトはこの判断を代わりにはしてくれません
- ブラウザにパスワードを保存しない
- 情報窃取型が最初に読むのがここです。パスワード管理ツールを使い、少なくともゲームプラットフォームとメールは保存対象から外してください
- Steam Guardとメール側の2段階認証を確認する
- アカウントの乗っ取りは、メールを取られると復旧まで持っていかれます。ゲーム側だけでなくメール側も必ず有効にしてください
- 心当たりがあれば全端末からサインアウトする
- セッションCookieを盗まれた場合、パスワード変更だけでは追い出せないことがあります。Steamならすべてのデバイスからサインアウトを実行してください
つまりセキュリティソフトを買うより先に、アカウント側で止めるほうが効きます。ここを固めずに有料製品を入れても、いちばん多い被害には届きません。
ゲームフォルダを丸ごと除外してはいけない
ネット上でよく見る「ゲームのフォルダを除外設定に入れると軽くなる」という手順があります。これは薦められません。
Microsoftは公式の資料で、除外は端末の保護を弱めるものであり、悪意がないと確信できるものだけに限るべきだと明記しています。除外してはいけない対象も別に一覧化されています。プロセス単位の除外に至っては、ネットワーク保護や攻撃面の縮小ルールによる検査まで止まります。
そのうえでゲームフォルダの中身を考えてください。MOD、有志の日本語化ファイル、ランチャーの実行ファイル、外部から落としたツール。実行ファイルが外部から追加され続ける場所です。ここを丸ごと除外するのは、いちばん除外したくない場所を除外する行為になります。
- やるなら実行ファイル単位で、原因を特定してから
- フォルダごとではなく、問題が起きている特定のexeだけに絞ります。何が引っかかっているかを確認せずに範囲を広げないでください
- スキャンの時刻をずらすほうが安全です
- Windowsセキュリティのスキャン設定で、フルスキャンを就寝時間帯などに移せます。ゲーム中に走らせないだけで体感は変わります
- 大型アップデートの最中は待つ
- 展開処理とスキャンが重なっているだけなら、終われば戻ります。ここで除外を追加すると、恒久的に穴が残ります
ゲームが起動しない、急に重くなるときの切り分け
セキュリティソフトが原因かどうかを確かめる順番です。
- 起動直後に落ちる、アンチチートの初期化に失敗する
- 常駐ソフトを一時停止して再現するか確認します。デルタフォースのように、アンチチートの初期化失敗が報告されているタイトルもあります
- オンラインだけつながらない
- 検出ではなくファイアウォールのブロックです。通信を許可する対象にゲームの実行ファイルが入っているかを確認してください
- アップデートが失敗する、ファイルがロックされる
- セキュリティソフトが更新ファイルを検査していると、置き換えができません。Steamでアップデートできない原因で詳しく扱いました
- ゲーム中に突然重くなる
- タスクマネージャーでAntimalware Service Executableを探してください。スキャンが走っているなら、原因は故障ではありません
- 検出されても、すぐ削除しない
- 隔離の中身を確認してください。MODツールや自動化ツールが誤検知されることがあります。判断がつかないファイルは復元せず、配布元を確かめるのが先です
なお有料製品の「ゲームモード」は、通知の抑制とスキャンの延期が中心です。fpsを上げる機能ではないので、そこを期待して買うと外します。
2026年は、セキュリティソフトがカーネルから出ていく移行期です
もう1つ、知っておくと判断が変わる動きがあります。
2024年のCrowdStrike障害では、セキュリティ製品の更新が原因で850万台規模のWindowsが起動不能になりました。これを受けてMicrosoftは、サードパーティのエンドポイント製品がカーネルの外側で動作できる仕組みをプレビュー提供しています。
これが広がると、セキュリティソフトの更新がブルースクリーンを引き起こす事故は減っていきます。カーネルモードで動くソフトが不具合を起こすとシステム全体が止まる、という構図はゲーム中にブルースクリーンが出る原因でアンチチートについて書いたものと同じです。いまは移行の途中なので、サードパーティ製品を入れるなら「更新で環境が壊れることがある」前提は残ります。
結論として、誰が何を選ぶか
- 自分専用のPCで、実行ファイルを自分で吟味できる人
- Defenderのままで足ります。空いた予算はパスワード管理と、ストレージの空き容量に回してください
- 家族と共用する、子供が使う
- 有料製品に価値があります。Webフィルタリングや保護者向け機能は、Defender単体では埋まりません。子供にゲーミングPCを買うときの選び方と合わせて考えてください
- ダウンロードと展開が多い、構成が控えめ
- 軽さで市販製品を選ぶ余地があります。負荷テストの差はここに出ます
- BTOで買うタイミングなら
- 同時購入の1,100円は、単体購入の4分の1近くです。1年だけ試して、続けるかを来年決めるのは合理的な選び方です
ゲーマー向けを名乗る製品もあります。ノートン 360 for Gamersは1年3台で7,000円台で、通知の抑制やダークウェブ監視が付きます。ただし中身の防御エンジンは通常版と同じで、fpsが上がる製品ではありません。複数台をまとめて守りたい人向けの選択肢と考えてください。
ノートン 360 for Gamers(1年3台・オンラインコード版)
ゲーマー向け/最大3台/通知抑制・ダークウェブ監視
ゲーマー向けを名乗るのは、通知の抑制やフルスクリーン中の動作調整といった使い勝手の部分です。検出エンジンそのものは通常版と同じなので、fps目的では選ばないでください。1年3台なので、家族のPCやノートまで一緒に守りたい場合に単価が下がります。
よくある質問
Q.ゲーミングPCにセキュリティソフトは必要ですか?
A.有料製品が必須ではありません。Microsoft Defenderの検出力は独立機関の2026年3月のテストで保護率99.93%と有料製品に並ぶ水準です。有料を入れる価値があるのは、家族や子供と共用する場合、Webフィルタリングやパスワード管理までまとめたい場合、そして負荷の軽さを重視する場合です。
Q.セキュリティソフトを入れるとfpsは下がりますか?
A.ほぼ誤差の範囲です。ゲームの実行中は新しいファイルの読み書きが少ないため、リアルタイム保護が働く場面が限られます。体感で分かるのはむしろゲームのダウンロードや大型アップデートのときで、SSDへの書き込みとスキャンが重なる場面です。fpsのためにセキュリティを切るのは効果に見合いません。
Q.Defenderがいちばん軽いのではないですか?
A.2026年4月のAV-ComparativesのPerformance Testでは、Microsoft Defenderは12製品中11位でした。Total Impact Scoreは12.9で、McAfeeの3.3やNortonの5.3より重い結果です。ただし実アプリのワークロードで測るProcyonのスコアではMicrosoftが最上位級なので、指標によって順位は入れ替わります。ファイルのコピーや展開、インストールで差が出ると理解してください。
Q.ゲームのフォルダを除外設定に入れてもいいですか?
A.薦められません。Microsoftは除外が端末の保護を弱めると明記しており、除外すべきでない対象も公開しています。ゲームフォルダはMODや外部から落としたツールが増え続ける場所なので、いちばん除外したくない場所です。どうしても必要なら、フォルダ単位ではなく問題の実行ファイル単位に絞ってください。
Q.BTOで注文するときにセキュリティソフトを付けるべきですか?
A.価格だけ見れば同時購入が有利です。ドスパラはPC同時購入でノートン360 スタンダードの1年版が税込1,100円で、単体購入の4,780〜5,280円と比べて4分の1近くになります。パソコン工房は15か月のバンドル版が選べます。ただし自動更新なので2年目は定価に戻ります。1年後に判断する前提で選んでください。
Q.プリインストールの体験版はそのままにしていいですか?
A.いちばん避けたい状態です。30日を過ぎると保護がほぼ機能しなくなり、通知だけが残ります。使わないなら削除してDefenderに戻し、使うなら期限内に有効化してください。第三者製品を入れるとDefenderは自動的に無効化されますが、体験版の期限切れでは自動では戻らないことがあります。
Q.セキュリティソフトを入れていればアカウントは守れますか?
A.守れません。2026年に報告が増えている情報窃取型は、ブラウザに保存されたパスワードとセッションCookieを狙います。Cookieを盗まれると、パスワードも2段階認証も通さずログインされます。ブラウザにパスワードを保存しない、Steam Guardとメール側の2段階認証を有効にする、心当たりがあれば全端末からサインアウトする。この3つのほうが効果が大きいです。
まとめ・次に読みたい記事
ゲーミングPCのセキュリティは、無料か有料かで決める話ではありません。
検出力だけを見るなら、Defenderのままで足ります。2026年3月の独立機関のテストで保護率99.93%です。一方で「Defenderがいちばん軽い」という前提は崩れていて、4月の負荷テストでは12製品中11位でした。軽さを理由に市販製品を選ぶ余地は、むしろ以前より広がっています。
ただし影響が出るのはfpsではなく、ゲームのダウンロードと展開、アップデートです。ここが遅いと感じたときに、ゲームフォルダを丸ごと除外するのは最悪の手です。実行ファイルが外部から増え続ける場所を、まるごと検査対象から外すことになります。
そして、いま実際に被害が出ているのは情報窃取型です。セキュリティソフトを買うより先に、ブラウザのパスワード保存をやめて2段階認証を固めるほうが効きます。盗まれたセッションを使われる攻撃は、検出の話ではないからです。
BTOで買うタイミングなら、同時購入の1,100円は単体購入の4分の1近くです。1年だけ入れて、来年に判断するのは合理的です。




