ワイヤレスイヤホンでゲームをしていて、銃声が聞こえたときにはもう画面の中で着弾していた、格闘ゲームで技を出した後にワンテンポ遅れて効果音が鳴る、といったズレを感じたことがあるかもしれません。「Bluetoothだから仕方ない」で片付けてしまいがちですが、実際には同じBluetooth接続でも、内部で使われているコーデック(音声の圧縮方式)によって遅延の大きさが数倍から10倍近く変わります。
結論から言うと、標準のSBCコーデックは200ミリ秒を超える遅延が出やすく、これは対戦ゲームでは明確に不利になる水準です。一方でaptX Low Latencyや、Bluetooth SIGがゲーム向けに新しく策定したGMAP(Gaming Audio Profile)を使えば40ミリ秒前後まで縮まり、Bluetoothを使わない2.4GHz専用ドングル方式ならさらに安定して低遅延を保てます。この記事では、どのコーデックが何ミリ秒程度の遅延を持ち、対応機器をどう見分ければよいのかを、公式資料ベースで整理します。
なお、ヘッドセットそのものの選び方(定位・マイク性能・装着感)はゲーミングヘッドセットの選び方で扱っています。本記事はそちらでは深く触れていない「なぜBluetoothは遅延するのか」「コーデックごとに何が違うのか」という技術的な部分に絞って掘り下げます。また、PC本体側で起きる入力遅延(fpsやNVIDIA Reflexなど)はゲームの入力遅延は何が効くのかで扱っており、本記事はその経路のうち「音が出るまで」の区間を音声デバイス側から補完する内容です。
そもそもBluetoothの遅延はどこで生まれるのか
Bluetoothで音を飛ばすとき、信号は次のような経路をたどります。まずPCやスマホの中でPCM(非圧縮)の音声データを、SBCやaptXといったコーデックで圧縮(エンコード)します。それを無線のパケットに分割して送信し、イヤホン側で受信してからパケットを一度バッファ(ジッターバッファ)に溜め、順番通りに並べ直してから展開(デコード)し、最後にアンプを通して音として鳴らします。
遅延の正体は、エンコードやデコードそのものにかかる計算時間よりも、パケットを送受信する間隔(コネクションインターバル)と、電波の乱れやパケットロスに備えてわざと持たせているバッファの待ち時間が大部分を占めます。コーデックによって圧縮に使うアルゴリズムの複雑さやパケットの詰め方が違うため、この待ち時間の設計そのものが変わり、結果として遅延の大きさが数倍単位で変わってくるわけです。
標準のSBCコーデックが遅い理由
Bluetoothのオーディオ機器はすべて、最低限SBC(サブバンドコーデック)というコーデックに対応することが義務付けられています。どんな機器同士でも音が出せる互換性の高さが利点ですが、実測での遅延は150〜300ミリ秒台という幅で報告されており、実装(機器の作り込み)によってかなりばらつきます(SoundLatencyTest)。
安いワイヤレスイヤホンの多くはSBCしか積んでいません。音楽を聴くだけなら気になりにくいレベルですが、200ミリ秒を超えると格闘ゲームのコンボや対戦FPSの銃声では明確な違和感になります。「イヤホン側もPC側もBluetooth対応」というだけでは、この一番遅いコーデックで接続されている可能性がある点に注意してください。
aptX Low Latencyは何が違うのか
Qualcommが開発したaptXには複数の系統があり、ここで混同が起きやすいので整理します。標準のaptXは、SBCより音質と遅延の両方を改善したコーデックですが、遅延そのものを最優先には設計されておらず、実測ではおおむね120ミリ秒前後とされています(Audioengine)。
これに対して、ゲームや映像視聴向けに遅延短縮だけを目的として別設計されたのがaptX Low Latencyです。Qualcomm公式は「約40ミリ秒」を仕様値として示しており、両端末がaptX Low Latencyで接続できた場合の実測も38〜42ミリ秒程度に収まるとされています(aptX公式)。なお、このaptX公式ページ自体は標準aptXの遅延には言及しておらず、aptX Low Latencyの約40ミリ秒のみを仕様値として示しています。ただし、一部のレビューサイト(本記事でSBCの出典として挙げたSoundLatencyTestなど)では「aptX」と「aptX Low Latency」を明確に区別せず、aptX全体の遅延を32〜40ミリ秒とまとめて紹介しているケースも見られます。実際には無印のaptXとLow Latency版は別物で、Low Latencyの型番や表記がある製品でなければこの40ミリ秒前後の値は出ません。
aptX Low Latencyを使うには、送信側(PCやスマホのBluetoothチップ)と受信側(イヤホン)の両方が対応している必要があります。PC側はQualcomm製のBluetoothアダプターかつ対応ドライバーが必須で、Windows標準のBluetoothスタックだけでは有効になりません。購入前にイヤホン側の商品ページで「aptX LL」「aptX Low Latency」の表記を確認し、PC側もそれに対応したアダプターかどうかを合わせて確認する必要があります。
ゲーム向けに生まれたLE AudioとGMAP
Bluetooth 5.2以降で導入された新しい無線方式がLE Audio(Low Energy Audio)です。省電力化と音質向上を主目的に設計されており、標準コーデックとしてLC3(Low Complexity Communication Codec)を採用しています。LC3はSBCの後継にあたり、同じビットレートでもより高音質、あるいは同じ音質でもより低いビットレートを実現できる設計です(Bluetooth SIG公式)。LC3自体の遅延に公式の固定値はありませんが、業界の実装例では20〜30ミリ秒程度が一般的な目安とされています。
さらに2023年11月、Bluetooth SIGはLE Audioを土台にした「GMAP(Gaming Audio Profile)」というゲーム専用のプロファイルを新たに策定しました。GMAPは接続の品質設定(QoS)をゲーム向けに調整したもので、もっとも遅延を切り詰める「Level A」では、送信から受信側コントローラーに届くまでを30ミリ秒以下、受信後に音として出すまでの提示遅延を10ミリ秒以下とし、システム全体で40ミリ秒を超えないよう規定しています(GMAP解説記事、Bluetooth SIG公式仕様)。
GMAPはまだ新しい規格で、対応製品は限定的です。ソニーは2026年7月、ヘッドホン「WH-1000XM6」向けのファームウェアアップデートでGMAP対応を追加しており、対応するゲーム機・スマホと組み合わせたときにゲーミング向けの低遅延プロファイルを利用できるようになっています(SoundGuys)。ただし、LE Audio・GMAPともに「Bluetooth 5.2以降のチップを積んでいれば自動的に使える」わけではなく、送信側・受信側の両方がドライバーレベルで明示的に対応している必要があります。この対応のばらつきは後述するWindowsやNintendo Switch 2の状況でも同じ問題として出てきます。
コーデック・接続方式ごとの遅延の目安
複数の情報源をもとにした一般的な目安。実装や測定条件によって上下します
Bluetoothを使わない「2.4GHz専用ドングル」が有利な理由
ゲーミングイヤホン・ヘッドセットに付属するUSBドングルの多くは、Bluetoothではなく2.4GHz帯を使った独自プロトコルです。Bluetoothは不特定多数の機器と互換性を保つため、接続確立の手順やコーデックの選択交渉、電力管理といった処理が挟まります。これに対して専用ドングルは、決まった1台のイヤホンとしか通信しない前提で設計されているため、こうした汎用的な手続きを省略し、パケットの送受信間隔を短く固定できます。
このドングル方式の効果が分かりやすいのが、同じ製品でBluetoothと2.4GHzの両方を切り替えられるモデルです。RazerのHammerhead Pro HyperSpeedは、付属の2.4GHzドングル使用時で40ミリ秒未満、同じイヤホンをBluetoothのゲーミングモードで使った場合は約60ミリ秒とされています(HotHardware)。ハードウェアも音質設定もまったく同じイヤホンで、接続方式を変えるだけでこれだけの差が出ます。
Bluetooth 5.3+2.4GHz専用ドングル/ANC/PS5・Switch・PC・スマホ対応
2.4GHzドングルとBluetoothを両方内蔵し、用途に応じて切り替えられるモデルです。第三者による実測では2.4GHzモード使用時の遅延は平均34.4ミリ秒程度とされています。ドングルをPCのUSBポートに挿すだけで使え、スマホとはBluetoothで同時待受もできます。
Razer Hammerhead V3 X HyperSpeed
2.4GHz HyperSpeedドングル+Bluetooth 5.3/11mmドライバー/USB-C充電ケース
上位モデルのPro HyperSpeedと同じHyperSpeed方式の2.4GHzドングルを採用しつつ、ANCを省いて価格を抑えたモデルです。ドングル接続時の体感遅延は有線に近いという評価が多く、PCでの対戦ゲーム用途を主に考えるなら、まずこのクラスから検討して問題ありません。

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SteelSeries Arctis GameBuds
音楽用のBluetoothイヤホンをゲームにも兼用したいなら、まず2.4GHzドングルを内蔵したモデルを選ぶのが失敗しにくい選択です
※価格・在庫は変動します。リンク先で最新情報をご確認ください。
なお、2.4GHz専用ドングルは電波の混雑にはBluetoothと同じく影響を受けます。マザーボード側のアンテナ未接続やUSB 3.0機器からのノイズが原因で不安定になることもあるので、接続が途切れる場合はマザーボードのアンテナは必要かも合わせて確認してください。
プラットフォームごとのBluetoothオーディオ対応状況
同じイヤホンでも、つなぐ機器によってBluetoothオーディオの扱いが大きく異なります。
- PS5
- 標準でBluetoothオーディオ機器に対応していません。Bluetoothイヤホンを接続しようとするとエラーコードCE-109531-9が表示され、ソニー公式も非対応を明記しています。使うにはUSB接続のBluetoothトランスミッターを挟むか、2024年に登場した独自の低遅延無線規格PlayStation Link対応の製品(PULSE Elite・PULSE Exploreなど)を使う必要があります。PlayStation公式サポート
- Xbox Series X/S
- ゲーム音声・ボイスチャットともにBluetoothでの直接接続には対応していません。コントローラーとヘッドセットの接続には、Xbox One時代から続く独自の低遅延無線Xbox Wirelessか、USB接続の2.4GHzドングルを使う設計です。市販のBluetoothイヤホンを使うには、TVやモニター側のBluetooth機能を経由するか、外付けのBluetoothトランスミッターが必要です。
- Nintendo Switch(無印・有機ELモデル)
- 2021年9月配信のシステムver.13.0.0でBluetoothオーディオ出力に対応しました。10台まで登録でき、そのうち1台を音声出力として使用できます。ただしSBC相当の対応にとどまり、Bluetoothマイクには非対応です。
- Nintendo Switch 2
- Bluetooth 5.2に対応し、SBCに加えAACコーデックでの接続も確認されています。ただし本体のBluetoothチップ自体はLE Audio(LC3)に対応する可能性が指摘されているものの、2026年9月時点のソフトウェアでは有効化されておらず、LE Audio機器を接続してもSBC/AACでの接続になります。
- Windows PC
- Bluetoothアダプターを搭載していれば標準で音声出力に対応しますが、実際にどのコーデックで接続されているかを示す設定画面はありません。Windows 11は22H2以降でLE Audio(LC3)の基盤対応を追加し、24H2以降ではQualcomm製アダプター向けにaptX Adaptiveの優先順位も上がっていますが、いずれもBluetoothチップとドライバーが該当機能を明示的にサポートしている場合に限られ、多くのノートPC内蔵Bluetoothモジュールは対応していません。
ゲームで気になり始める遅延の目安
遅延がどこから「気になる」レベルになるかは、ジャンルと用途で変わります。対戦系FPSや格闘ゲームのように、音と操作のタイミングが直結するジャンルでは、40〜50ミリ秒を超えたあたりから反応の遅れとして自覚されやすくなるという報告が複数あります。100ミリ秒を超えると、銃声を聞いてから照準を合わせるといった動作が視覚情報より後追いになり、はっきりと不利を感じるようになります。一方、シングルプレイのRPGやカジュアルなパズルゲームであれば、100ミリ秒前後までは大きな支障になりにくいとされています。
なお、放送業界には音声と映像のズレに関する別の基準として、EBU(欧州放送連合)のR37という勧告があり、音声が映像より40ミリ秒以上先行、または60ミリ秒以上遅れると視聴者が違和感を覚えやすいとされています(EBU R37)。これは映像の口の動きと音声のズレ(リップシンク)を対象にした基準で、ゲームの反応速度に対する基準とは前提が異なります。偶然どちらも40ミリ秒前後という数字が出てきますが、「40ミリ秒」という数字が一人歩きしている場合は、競技性への影響の話なのか、映像とのズレの話なのかを区別して読むようにしてください。
Windowsで今どのコーデックが使われているか確認する
Windows 11には、接続中のBluetoothイヤホンが実際にどのコーデックで動いているかを表示する標準機能がありません。デバイスマネージャーやBluetoothの設定画面からは、接続されている機器名までは確認できても、SBCなのかAACなのかaptXなのかまでは分からない仕様です。
どうしても確認したい場合は、「Bluetooth Tweaker」のようなサードパーティ製の診断ツールを使う方法があります。イヤホンを接続して音楽を再生した状態でアプリを起動し、対象デバイスを選んで更新すると、機器側が対応しているコーデックの一覧と、Windowsが実際に選んで使っているコーデックが別々に表示されます(iTechGuides)。確認する際は、ボイスチャットアプリなどマイクを使うソフトを閉じた状態で行ってください。マイクが有効になっていると、音質より通話の安定性を優先したHFP/HSPというプロファイルに自動的に切り替わり、音質が大きく落ちた状態で計測してしまいます。この音質低下は遅延の問題とは別軸の現象なので、混同しないよう注意してください。
よくある失敗
- 「Bluetooth対応」だけを見て選ぶ
- SBCのみの対応でも「Bluetooth対応」と表記されます。ゲーム用途ならaptX Low LatencyやLE Audio/GMAPへの対応を製品ページで個別に確認してください。
- イヤホン側だけ対応していれば良いと思い込む
- aptX Low LatencyもLE Audioも、送信側のPC・スマホと受信側のイヤホンの両方が対応していないと有効になりません。PC側のBluetoothアダプターの仕様も確認が必要です。
- PS5にそのまま市販のBluetoothイヤホンをつなごうとする
- PS5は標準でBluetoothオーディオに非対応です。USBトランスミッターを挟むか、PlayStation Link対応製品を選んでください。
- 遅延と音質低下を同じ原因だと思ってしまう
- ボイスチャット中に音がこもる・低音質になる現象は、多くの場合マイク使用時にHFP/HSPプロファイルへ切り替わったことが原因で、遅延とは別の問題です。
- 遅延(ズレ)と音切れ(プツプツというノイズ)を同じ原因だと思ってしまう
- 音が遅れて聞こえる遅延と、「プツッ」「ブツッ」と一瞬途切れるノイズは別の症状です。後者はUSBセレクティブサスペンドやPCIeの電源管理設定が原因のことが多く、PCの音がゲーム中にプツプツ途切れる・ノイズが乗る原因と直し方で扱っています。
よくある質問
Q.ワイヤレスイヤホンの遅延はどのくらいなら気にしなくていいですか?
A.対戦系FPSや格闘ゲームなど反応速度が重要なジャンルでは40〜50ミリ秒以下が目安です。シングルプレイ中心のカジュアルなゲームであれば100ミリ秒前後まではそれほど気にならないとされています。
Q.aptXとaptX Low Latencyは同じものですか?
A.別物です。標準のaptXは音質と遅延のバランスを取ったコーデックで遅延はおおむね120ミリ秒前後、aptX Low Latencyは遅延の短縮だけを目的に別設計されたコーデックで約40ミリ秒です。商品ページで「Low Latency」や「LL」の表記があるかを確認してください。
Q.LE Audio対応と書いてあれば低遅延なゲーム用途に使えますか?
A.LE Audio自体は省電力・高音質が主目的の規格で、低遅延を保証するものではありません。ゲーム向けに遅延を規定しているのはLE Audioの上に策定されたGMAPという別のプロファイルで、対応をうたう製品はまだ多くありません。
Q.PS5でワイヤレスイヤホンを使う方法はありますか?
A.標準のBluetoothイヤホンはそのままでは使えません。USB接続のBluetoothトランスミッターを使うか、ソニーの独自規格PlayStation Linkに対応したPULSE ExploreやPULSE Eliteのような製品を選ぶ必要があります。
Q.2.4GHz専用ドングルとBluetoothはどちらを選ぶべきですか?
A.PCでの対戦ゲーム用途を優先するなら2.4GHz専用ドングルが有利です。同じ製品でBluetoothとドングルを切り替えられるモデルでも、ドングル接続時の方が低遅延になる例が確認されています。外出先でスマホと使う機会が多いならBluetoothも兼用できるモデルを選んでください。
Q.Windowsで使っているBluetoothコーデックを確認する方法はありますか?
A.標準機能では確認できません。Bluetooth Tweakerのようなサードパーティ製ツールを使うと、機器が対応しているコーデックと実際に選ばれているコーデックを別々に確認できます。確認時はマイクを使うアプリを閉じておいてください。
まとめ・次に読みたい記事
同じBluetoothイヤホンでも、SBCだけの対応なら200ミリ秒台、aptX Low Latencyなら約40ミリ秒、ゲーム専用のGMAPも40ミリ秒以下を規定と、コーデック次第で遅延は大きく変わります。PCでの対戦ゲーム用途を最優先するなら、Bluetoothの中でどのコーデックに対応しているかを確認するより先に、2.4GHz専用ドングルに対応したモデルを選ぶ方が確実です。あわせて、つなぐ先がPS5やXboxの場合はそもそもBluetoothオーディオに対応していないことがあるので、購入前に対応状況を確認してください。




