ボイスチャットで「息の音がすごい」「後ろでファンが回ってる音がする」と言われた。配信を始めたら、自分の声より打鍵音のほうが目立っていた。
マイクを買い替えれば直る、とは限りません。原因は製品の値段ではなく、感度と距離と置き方で決まります。ここを先に理解すると、選ぶ製品も変わります。
順番に見ていきましょう。
ヘッドセットのマイクで足りる人、足りない人
先に線を引いておきます。単体マイクは、全員に必要なものではありません。
- ヘッドセットのマイクで足ります
- 身内とのボイスチャットが中心で、声が届けば十分という使い方です。口元にアームで固定されるので、実は距離の条件では有利です
- 単体マイクを検討する価値があります
- 配信や録画で他人に聞かせる、複数人の通話で聞き返されることが多い、ヘッドホンは音質重視の別製品を使いたい、という場合です
- むしろ悪化する組み合わせもあります
- PCの真横に置いた高感度マイクは、口元のヘッドセットマイクより騒音を拾います。買い替えたのに評判が下がるのはこのパターンです
ヘッドセット側の選び方はゲーミングヘッドセットの選び方にまとめました。ここから先は、単体マイクを足す前提で進めます。
PCの音を拾うのは、感度が高いからです
「コンデンサーマイクは環境音を拾いやすい」という説明はよく見ますが、どれくらい違うのかを数値で見たほうが納得できます。
同じメーカーの製品で比べます。オーディオテクニカのコンデンサーマイクAT2020は感度が−37dB(14.1mV)、同社のダイナミックマイクAT2040は−53dB(2.2mV)です(いずれも0dB=1V/Pa、1kHz)。
同じ音圧を受けたときの出力(1Paあたり)
オーディオテクニカ公式の仕様値。0dB=1V/Pa・1kHz。数値が大きいほど小さな音でも電気信号に変わる
差は16dB、倍率にすると6.4倍です。同じ部屋、同じ距離のファンの音に対して、コンデンサーは6倍以上の信号を出します。その信号を「小さいから」と入力レベルで持ち上げれば、当然ファンの音も一緒に持ち上がります。
- コンデンサーは声の細部まで拾えます
- 息づかいや口の動きまで入るので、静かな部屋で丁寧に録るなら有利です。ナレーションや歌の収録でこちらが使われるのは、この解像度のためです
- ダイナミックは近い音だけを拾います
- 感度が低いぶん、口元に寄せて使う前提になります。結果として、離れた場所のファンやエアコンが目立ちません
- ゲーム用途ではダイナミックが有利な場面が多いです
- ゲーミングPCは足元や机の上で常にファンが回っています。静かな環境を用意できないなら、拾わない側を選ぶほうが早いです
自分のPCがどれくらいの音を出しているかは、ゲーミングPCがうるさい原因で音の種類ごとに切り分けています。コイル鳴きのようにfpsに比例して出る音は、掃除では止まりません。
いちばん効くのは、口元に近づけることです
機材の話より先に、これを押さえてください。音の大きさは距離の二乗に反比例します。距離が半分になれば、その音源だけが約6dB大きくなります。
- 50cmから15cmに寄せると、声だけが約10dB上がります
- PCのファンは動いていないので、そのままです。つまり声とノイズの差が10dB広がります。マイクを買い替えるより確実で、費用はゼロです
- 寄せられるなら入力レベルを下げられます
- 声が十分大きく入るので、ゲインを上げる必要がなくなります。ノイズを増幅しない状態を作れます
- 画面の前に置けないなら、アームで持ってきます
- モニターの手前に立てると顔から遠くなります。クランプ式のアームで横から差し出すと、口元15〜20cmを確保できます
- マイクブーストは最後の手段です
- Windowsのマイクブーストで+20dBや+30dBを足すと、ノイズも同じだけ増えます。ここを使う前に距離を詰めてください
指向性も同じ理屈です。単一指向性(カーディオイド)は正面の音を拾い、背面をある程度切ります。マイクの正面を口に向け、背面をPC側に向けるのが基本の置き方です。全方向を拾うモードは会議で複数人を囲むためのもので、机の上で1人が使う場面には向きません。
ソフトで消せる時代の割り切り
2026年は、ここが選び方を変えます。
GeForce RTX搭載機なら、NVIDIA Broadcastでマイクの背景ノイズを除去できます。仮想的なマイクとしてWindowsに現れるので、DiscordやOBSからはただのマイクとして選べます。必要なのはRTX 2060以上のGPUです(NVIDIA公式FAQ)。
- 定常的な音にはよく効きます
- ファンの回転音やエアコンのように、途切れなく鳴り続ける音は得意な相手です。キーボードの打鍵音にも一定の効果があります
- 声質は少し削られます
- 処理をかけるので、素の声とは変わります。強くかけると水中のような響きになるため、効き具合は控えめから試してください
- Discord側にも同種の機能があります
- アプリ内のノイズ抑制でも同じ方向の処理ができます。二重にかけると声が痩せるので、どちらか一方にしてください
- ハードの予算配分が変わります
- ソフトで消せるなら、高価な機材でノイズを避ける必要性は下がります。1万円前後の製品でも実用になります
ただし前提として、ソフトは「入ってしまった音を減らす」処理です。最初から入らないようにする距離と指向性のほうが、上流にあります。
接続はUSBで足ります
XLR接続とオーディオインターフェースを組み合わせる構成もありますが、ゲーム用途で最初から選ぶ必要はありません。
- USB接続で完結します
- 電源も変換もマイク側に入っているので、挿すだけで使えます。多くの製品にヘッドホン端子が付いていて、自分の声を遅延なく確認できます
- XLRが必要になるのは組み合わせを増やすときです
- 複数のマイクを混ぜる、外部の機器を通す、将来的にマイクだけ交換したい。こうした条件が出てきてから移行すれば十分です
- USBハブ経由は避けてください
- 電源が不安定になると、ノイズや認識切れの原因になります。PC本体の端子に直接挿してください
- サンプリングレートの数字は判断材料になりません
- 24bit/96kHz対応と書かれていても、ボイスチャットに渡る時点で圧縮されます。録音品質を追う用途以外では気にしなくて構いません
打鍵音は、マイクではなく机から伝わります
ここはモニターアームの選び方と同じ構図です。失敗するのは机側です。
キーボードを叩いた振動は、天板を伝わってマイクスタンドの脚から本体に入ります。空気を通って届く音ではないので、指向性でもソフトでも切りにくい種類のノイズです。
- ショックマウントで浮かせる
- ゴムやサスペンションでマイク本体を吊る構造です。振動の伝わる経路を物理的に切ります。内蔵している製品もあります
- アームで机から離す
- クランプ式のアームでモニターの横から差し出すと、口元に近づけながら天板からも離せます。距離とノイズ対策を同時に解決できます
- PCの置き場所も影響します
- 机の上に本体を置くと、ファンの音が至近距離になります。床から数cm浮かせて足元に置くほうが、吸気にも有利です。詳しくはゲーミングPCの置き場所で扱いました
- スタンドのまま使うなら、下に厚手のマットを敷く
- アームを追加しない場合の簡易策です。天板との間に緩衝材が入るだけでも変わります
価格帯別の候補
ここまでの基準に当てはめると、選択肢は3つに分かれます。優劣ではなく、環境によって答えが変わります。価格は2026年8月時点の価格.com最安です。
コンデンサー/単一指向性/内蔵ショックマウント/USB-C/約8,980円
最初の1本として無理のない価格です。ショックマウントとポップフィルターを内蔵しているので、机の振動と息の音への基本的な対策が入っています。感度が高いコンデンサー型なので、静かな部屋か、RTX搭載機でソフト側のノイズ除去を併用できる環境に向きます。タップでミュートできるのはボイスチャットで実用的です。
コンデンサー/単一指向性/ミュートボタン・ヘッドホン出力/USB-C/約16,980円
声の質を優先するならこちらです。AT2020系は世界で200万本以上売れた定番で、USB版はドライバなしで使えます。ヘッドホン出力で自分の声を遅延なく確認できるため、レベル調整がしやすいのも利点です。ただし感度が高い製品なので、部屋とPCの騒音を先に片付けてから選んでください。
ダイナミック/単一指向性/USB-C/内蔵DSP・自動レベル/約24,440円
PCの騒音が避けられない環境なら、これが答えになります。ダイナミック型なので離れた音を拾いにくく、口元に寄せて使う前提の設計です。内蔵のDSPに自動レベル調整とノイズ低減が入っているので、設定を詰めなくても実用的な音になります。予算が許すなら、環境を変えずに解決できる選択肢です。なおPlayStationには対応しないので、PCとスマートフォンで使う前提で選んでください。
Windows側でやっておくこと
機材を替える前に、設定で解決する部分があります。
- 入力レベルは声が振り切れない範囲で最大に
- サウンド設定の入力デバイスから音量を調整します。ブーストで足すのではなく、まず素の入力レベルで合わせてください
- 既定の通信デバイスも確認する
- Windowsは通常用と通話用の既定を別に持っています。マイクを増やしたのに反映されないときはここです。音が出ないときの対処で詳しく扱いました
- プライバシー設定でブロックされていないか見る
- 機器は正常でもアプリがマイクにアクセスできない状態だと、一切拾いません。アプリ単位の許可も確認してください
- サイドトーンを有効にする
- 自分の声が聞こえる状態にすると、無自覚な声の張りすぎや口の離れに気づけます。マイク側のヘッドホン端子か、アプリの設定で有効にできます
よくある失敗
- PCの隣に高感度マイクを置く
- いちばん多い失敗です。ファンの音源から30cmの位置に、6倍拾う機材を置いていることになります
- 全方向を拾うモードで使う
- 製品に複数の指向性が付いていると、初期状態が単一指向性でないことがあります。設定を確認してください
- ゲインを上げて音量を稼ぐ
- 声が小さいのは距離の問題であることが多いです。増幅はノイズも一緒に持ち上げます
- ノイズ除去を二重にかける
- NVIDIA BroadcastとDiscordのノイズ抑制を同時に強くかけると、声が不自然になります
- スペック表の数字で選ぶ
- サンプリングレートやビット深度は、ボイスチャットでは差になりません。感度・指向性・置き方のほうが結果を左右します
よくある質問
Q.ゲーム用のマイクはコンデンサーとダイナミックのどちらがいいですか?
A.PCのファンの音が入る環境ならダイナミックが有利です。オーディオテクニカの公式仕様で比べると、コンデンサーのAT2020は感度−37dB(14.1mV)、ダイナミックのAT2040は−53dB(2.2mV)で、同じ音圧に対して6.4倍の差があります。静かな部屋を用意できて声の質を優先したいならコンデンサーが向きます。
Q.マイクを買い替えたのに、PCの音が入ると言われます
A.距離と置き場所を先に見直してください。音の大きさは距離の二乗に反比例するので、50cmから15cmに寄せるだけで声だけが約10dB大きくなります。マイクの正面を口に向け、背面をPC側へ向けるのも基本です。PC本体を机の上ではなく足元に置くのも効きます。
Q.NVIDIA Broadcastがあればマイクは安物で十分ですか?
A.予算を下げる方向には働きます。RTX 2060以上のGPUがあれば背景ノイズを除去でき、仮想マイクとしてDiscordやOBSから選べます。ただし処理をかけるぶん声質は変わり、強くかけると不自然になります。距離と指向性で入れない工夫が上流にあることは変わりません。
Q.打鍵音が入ります。指向性を変えれば直りますか?
A.直りにくい種類のノイズです。キーボードの振動は空気ではなく机の天板を伝わり、スタンドの脚からマイクに入ります。ショックマウントで本体を浮かせるか、クランプ式のアームで机から離してください。アームなら口元に近づける効果も同時に得られます。
Q.USB接続とXLR接続はどちらを選ぶべきですか?
A.ゲーム用途ならUSBで足ります。電源も変換もマイク側に入っており、挿すだけで使えます。XLRとオーディオインターフェースが必要になるのは、複数のマイクを混ぜる、外部機器を通す、マイクだけ将来交換したいといった条件が出てきたときです。なおUSBハブ経由は電源が不安定になるため、本体の端子へ直接挿してください。
Q.ヘッドセットのマイクではだめですか?
A.用途次第です。身内とのボイスチャットが中心なら十分で、口元に固定される点は距離の条件で有利です。単体マイクを足す価値があるのは、配信や録画で他人に聞かせる場合、聞き返されることが多い場合、ヘッドホンを別に選びたい場合です。PCの横に高感度マイクを置くと、かえって悪化することもあります。
Q.24bit/96kHz対応のほうが音がいいのでは?
A.ボイスチャットでは差になりません。通話に渡る時点で圧縮とサンプリングレートの変換が入ります。録音してから編集する用途では意味がありますが、選ぶ基準としては感度・指向性・机側の対策のほうが優先度が高いです。
まとめ・次に読みたい記事
マイク選びは、値段の順に並べても答えが出ません。
まず感度です。同じメーカーの製品で比べても、コンデンサーとダイナミックには6.4倍の差があります。ゲーミングPCが足元で回っている環境なら、拾わない側を選ぶほうが確実です。
次に距離です。50cmから15cmに寄せるだけで、声とノイズの差が約10dB広がります。機材の入れ替えより効きますし、費用はかかりません。単一指向性のマイクを、正面は口、背面はPCへ向けてください。
打鍵音だけは別扱いです。机の天板を伝わって入るので、ショックマウントかアームで経路を切ります。
RTX搭載機なら、ソフト側のノイズ除去も使えます。ここを前提にすると、1万円前後の製品でも実用になります。逆に静かな部屋を用意できるなら、感度の高いコンデンサーで声の質を取る選択が生きてきます。






