配信用のPCを選ぶとき、「配信もするならGPUを1ランク上げておこう」と考える方は多いと思います。ただ、それは必ずしも正解になりません。
というのも、配信の処理はGPUの描画性能とは別の回路が担当しているからです。ゲームの性能を決めるのはGPUのランクですが、配信の快適さを決めるのはエンコーダの世代と搭載数という、カタログの目立たないところにある数字です。
そして2026年時点では、そこにもうひとつ厄介な事情が加わります。最新のエンコーダを積んでも、配信先が対応していなければ恩恵を受けられないという点です。この記事では、その構造を整理したうえで、予算別に何を選ぶべきかをまとめます。
配信の負荷は、GPUのランクとは別のところにあります
まず仕組みからです。ゲーム画面を配信するには、映像を圧縮(エンコード)して配信先に送る必要があります。この圧縮を誰が担当するかで、負荷のかかり方がまったく変わります。
- NVENCなどのハードウェアエンコード
- GPUに内蔵された専用回路が担当します。描画を担うシェーダーとは別のユニットなので、ゲームのフレームレートへの影響は3〜5%程度にとどまります
- x264などのソフトウェアエンコード
- CPUが担当します。画質を追い込める反面、負荷が非常に高く、タイトルによってはフレームレートが15〜30%以上落ちることもあります
ここが要点です。NVENCを使う限り、配信のためにGPUのランクを上げる必要はほとんどありません。専用回路が別にあるので、描画性能を食い合わないからです。
「配信もするからRTX 5080に」という考え方は、ゲーム側の要求から必要ならば正しいのですが、配信のためという理由では根拠が薄いということになります。
エンコーダは世代で対応コーデックが変わります
では何を見るべきかというと、まずエンコーダの世代です。GeForceの場合、世代ごとに扱えるコーデックが違います。
- RTX 30シリーズ(第7世代NVENC)
- H.264とHEVCに対応します。AV1のエンコードには対応していません
- RTX 40シリーズ(第8世代NVENC)
- AV1エンコードに対応しました。AV1はH.264より約40%効率が良いとされ、同じ画質をより低いビットレートで送れます
- RTX 50シリーズ(第9世代NVENC)
- HEVCとAV1の画質が約5%向上。さらにUHQ(超高画質)モードで約5%上乗せできます。加えて4:2:2フォーマットのエンコード/デコードに対応しました
補足しておくと、UHQモードはRTX 40シリーズにも後方互換で提供されています。つまりRTX 40をお使いなら、買い替えなくてもこの画質改善は受けられます。RTX 50固有の強みは、4:2:2対応と素の品質向上のほうです。
なお4:2:2は動画編集で効いてくる要素で、配信そのものへの効果は限定的です。編集もするなら価値がありますが、配信だけが目的なら決め手にはなりません。編集を本格的に兼ねる場合の構成はゲーミングPCで動画編集は兼用できる?にまとめました。
同じRTX 50でも、エンコーダの数が違います
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
RTX 50シリーズはすべて第9世代NVENCを積んでいますが、搭載している基数がモデルによって違います。NVIDIAが公開しているサポート表で確認すると、次のとおりです。
GeForce RTX 50シリーズのNVENC搭載基数
NVIDIA公式のエンコード/デコード対応表より。全モデルがH.264・HEVC・AV1に対応
RTX 5070とRTX 5070 Tiの間に境目があります。ここは覚えておく価値があります。
1基で足りる人、2基が要る人
では基数の差がどこで効くのかというと、同時にいくつのエンコードを走らせるかです。
- 1基で足りる(多くの人はこちら)
- 配信をひとつ流すだけなら1基で十分です。1080pでも1440pでも、通常のゲーム配信でエンコーダが足りなくなることはまずありません
- 2基以上が効く
- 配信しながら同時にローカル録画も残す、さらにリプレイバッファを常時回すといった使い方です。複数の出力を同時に処理するため、基数が効いてきます
配信のアーカイブを高画質でローカルに残したい方や、切り抜き用にリプレイバッファを常駐させたい方は、2基以上のモデルを検討する価値があります。逆に配信を流すだけなら、1基のモデルで妥協する理由はありません。
そして実売価格で見ると、この差は意外と小さいところにあります。2026年8月14日時点のドスパラで、RTX 5070搭載機が28万4,980円、RTX 5070 Ti搭載機が30万9,980円。2万5,000円の差が、エンコーダ1基ぶんの差でもあるということになります。
ただしAV1は、配信先が対応していないと意味がありません
もうひとつ、購入前に知っておいてほしいことがあります。
AV1はH.264より約40%効率が良く、同じビットレートでより高画質を送れます。しかしその恩恵を受けられるかどうかは、GPUではなく配信先が決めます。2026年8月時点の状況は次のとおりです。
- YouTube Live
- H.264・HEVC・AV1すべてに正式対応。ビットレートの上限も最大51,000 Kbpsと高く、AV1なら4K60fpsを約20Mbpsで送れます(H.264だと35Mbps必要)
- Twitch
- Enhanced BroadcastingでH.264が必須、HEVCとAV1はベータ扱いにとどまっています。合計ビットレートの上限も約20,000 Kbpsです
- Discord
- すべてのエンコーダ種別でAV1に対応しています
つまり、Twitchを主戦場にしている方は、AV1対応を理由にGPUを選んでも、すぐには恩恵が出にくいということです。将来的にベータが取れれば活きてきますが、いま払うお金の根拠としては弱いと考えてください。
逆にYouTubeで配信する方にとっては、AV1対応は実利があります。同じ回線でより高画質を送れるか、同じ画質をより細い回線で送れるからです。上り回線に不安がある方ほど効いてきます。
自分がどこで配信するかを決めてからGPUを選ぶ。順番はこちらです。
2台構成は、もう必要ない場面が増えました
かつては「ゲーム用PCと配信用PCを分ける」のが本格派の構成でした。ただ、これはx264によるCPUエンコードが主流だった時代の話です。
前述のとおり、NVENCならゲームへの影響は3〜5%程度にとどまります。わざわざもう1台を用意して映像を渡す手間とコストに、見合わなくなってきました。
- 1台で十分な場合(多くの方)
- 1080pから1440pのゲーム配信であれば、1台構成で問題ありません。NVENCに任せておけば、ゲーム側の体感はほとんど変わりません
- 2台構成を検討する余地がある場合
- 4Kの最高設定や、240fps級の競技配信を同時にこなす場面では、1台だと余裕がなくなることがあります
2台目のPCを買う予算があるなら、1台のメモリとストレージ、そして上り回線に回したほうが満足度は高くなります。
予算別のおすすめ構成
ここまでを踏まえた構成です。価格は2026年8月14日時点でドスパラの公式ページを確認した実売価格です。
- 20万4,980円 — RTX 5060 Ti 16GB(配信入門)
- THIRDWAVE AD-R5A56C-01B(Ryzen 5 7500F/16GB DDR5/500GB SSD)。NVENCは1基ですが、AV1に対応しており1080p配信には十分です。メモリは32GBへの増設を前提にしてください
- 28万4,980円 — RTX 5070(配信の標準)
- GALLERIA XPR7M-R57-GD(Ryzen 7 7700/16GB DDR5/500GB SSD)。NVENC 1基。ゲーム側の余裕が増えるので、重いタイトルを配信するならこちらです
- 30万9,980円 — RTX 5070 Ti(配信+録画を同時に)
- GALLERIA XPR7M-R57T-GD(Ryzen 7 7700/16GB DDR5/500GB SSD)。NVENC 2基。配信しながら高画質のローカル録画を残したい方はここが分岐点です
- 37万4,980円 — RTX 5080(4K配信や編集も)
- GALLERIA XPR7M-R58-WL(Ryzen 7 7700/16GB DDR5/500GB SSD)。NVENC 2基。4:2:2対応が編集で効いてくるため、動画制作まで見据えるならこちらです
いずれも標準構成はメモリ16GB・SSD 500GBです。配信ではOBSやブラウザ、チャットツールを同時に動かすため、メモリ32GBを基準にしてください。録画も残すならSSDも1TB以上が安心です。
価格帯ごとの詳しい選び方は予算別おすすめゲーミングPCにまとめています。
見落とされがちな3つのこと
PC本体以外にも、配信の質を左右する要素があります。むしろこちらのほうが体感を決めることも多いです。
- 上り回線
- 配信で使うのは上り(アップロード)です。下りが速くても上りが細い回線は珍しくありません。1080p/60fpsで6Mbps前後、余裕を見るなら10Mbps以上の上り速度を確保してください。可能なら有線接続を推奨します
- 音声
- 視聴者が離脱する原因は、画質より音であることが多いです。映像に数万円かけるより、マイクに1万円かけたほうが効くことがあります
- メモリ
- OBS・ゲーム・ブラウザ・チャットツールの同時起動で、16GBはすぐ埋まります。配信するなら32GBが実質的な最低ラインです
周辺機器についてはゲーミングヘッドセットの選び方も参考にしてください。
よくある失敗
- 配信のためにGPUのランクを上げる
- 配信の処理は専用回路が担当するため、描画性能とは別の話です。GPUを上げるべき理由は「配信するから」ではなく「そのゲームが重いから」であるべきです
- AV1対応を理由に選んで、Twitchで配信する
- Twitchは2026年時点でAV1がベータ止まりです。配信先を先に決めてからGPUを選んでください
- x264のままゲームがカクつくと悩む
- CPUエンコードは負荷が高く、タイトルによっては15〜30%以上フレームレートが落ちます。まずOBSの設定でNVENCに切り替えてください
- メモリ16GBのまま始める
- OBSと配信ツールを同時に動かすと16GBは足りません。ここを削ると配信中にカクつきます
- 2台構成に予算を割く
- NVENCの影響が3〜5%にとどまる以上、多くの人には過剰投資です。その予算はメモリ・ストレージ・上り回線に回すほうが効きます
よくある質問
Q.配信用のゲーミングPCはどのくらいのスペックが必要ですか?
A.配信の処理はGPU内蔵の専用回路(NVENC)が担当し、ゲームへの影響は3〜5%程度です。そのため「配信するから」という理由でGPUのランクを上げる必要はほとんどありません。1080p配信ならRTX 5060 Ti 16GBクラスで足り、重いタイトルを配信するならRTX 5070クラスが目安です。むしろメモリ32GBの確保のほうが重要です。
Q.RTX 5070とRTX 5070 Ti、配信目的ならどちらですか?
A.配信を流すだけならRTX 5070で十分です。ただしNVIDIA公式の仕様ではRTX 5070がNVENC 1基、RTX 5070 Tiが2基となっており、配信しながら高画質のローカル録画も残す、リプレイバッファを常時回すといった使い方をするなら5070 Tiに価値があります。実売価格差は約2万5,000円です。
Q.AV1対応のGPUを買えば配信が高画質になりますか?
A.配信先しだいです。YouTube LiveはAV1に正式対応しており、4K60fpsを約20Mbpsで送れます(H.264なら35Mbps必要)。一方Twitchは2026年8月時点でH.264が必須で、AV1はベータ扱いです。Twitch中心ならAV1対応を購入理由にするのは時期尚早です。
Q.配信用にPCを2台用意すべきですか?
A.多くの方には不要です。NVENCを使えばゲームへの影響は3〜5%程度で、1080p〜1440pの配信なら1台で問題ありません。2台目の予算があるなら、メモリの増設や上り回線の改善に回すほうが体感は良くなります。4K最高設定や240fps級の競技配信を同時にこなす場合のみ検討してください。
Q.x264とNVENC、どちらで配信すべきですか?
A.ゲームと配信を1台でこなすならNVENCです。x264はCPUを使うため画質を追い込める反面、タイトルによってはフレームレートが15〜30%以上落ちます。NVENCなら3〜5%程度に収まります。
Q.RTX 40シリーズから買い替える価値はありますか?
A.配信目的だけなら、優先度は高くありません。RTX 50で加わった画質向上のうちUHQモードはRTX 40にも後方互換で提供されており、買い替えなくても利用できます。RTX 50固有の強みは4:2:2対応ですが、これは主に動画編集で効く要素です。ゲーム性能の不足を感じているかどうかで判断してください。
まとめ・次に読みたい記事
配信用のPC選びで見るべきなのは、GPUのランクよりもエンコーダの世代と搭載数です。RTX 50シリーズはすべてAV1に対応していますが、NVENCの基数は5060から5070までが1基、5070 Tiと5080が2基、5090が3基と分かれています。配信を流すだけなら1基で十分で、録画やリプレイバッファを同時に回すなら2基が効いてきます。
そしてAV1の恩恵は配信先が決めます。YouTubeは正式対応、Twitchはまだベータ。どこで配信するかを決めてからGPUを選んでください。
最後に、2台構成はもう多くの人には過剰です。その予算はメモリ32GBと上り回線に回したほうが、配信の質は上がります。価格や各プラットフォームの対応状況は変わりますので、購入前には最新情報をご確認ください。



